気持ちのよい昼下がり。
子供が学校で給食を食べ、大人たちも何かを言いながら昼を食べている時間だろう。
とにかく今は昼の時間なのだ。
そんな時間にも関わらず一人の白髪の少年は誰もいない部屋で机に向かっている。
少年は楽しそうに、そして必死そうに何かを紙に書いているように見えた。
その紙を少し覗いてみるとしよう。







〜フライパン大魔王と勇者トキ〜







いくつもの壁を乗り越え、敵を倒し、そして深い森を抜け、ついにワイらはここに辿り着いた。

「ここにフライパン大魔王が…」

ジャージ姿の少年が目の前にそびえ立つ大きな城を見て呟いた。
彼の名前は梗。ワイの仲間や。

「フライパン大魔王は凄く強いと聞くわ。それでも行くの? トキくん」

巫女さん姿の華やかな美人はんが言った。
彼女の名前は美優。ワイの仲間や。

「あたりまえや。やっとここまで来たんや。諦めるわけにはいかへん」

ワイはそびえ立つフライパン大魔王の城を見た。
やっとここまで来たんや。
こいつを倒せば…世界が救われるんや。
ワイは武器として使っている黒い傘を握り締めた。

「トキ、緊張してるの?」

猫のような耳をしている少年がワイに問うた。
彼はマヤ。ワイの仲間であり、最強最悪の兵器や。
ワイはにっこり笑った。

「大丈夫やで。ワイは大丈夫や。ここまで色んな事があったさかい。でも、これが最後や。皆、行くで!!」

ワイは、被っているシルクハットを被りなおし、フライパン大魔王の城に入った。
勿論仲間たちはワイの後に続いた。

「最後まで一緒に行くよ」

梗がワイに笑いかけた。他の仲間も笑った。
この仲間がいたからこそ、ワイはここまでこれたんや。
皆、あいがとう。おおきにな。
でも、あと少しで終わるで。後少しや。




***




フライパン大魔王の城は静まり返っていた。

「不気味や…。絶対何かいるで」

ワイらの中に緊張が走った。
ワイは息を呑んだ。


ガタガタガタ


急に物音がした。

「誰か、いるよ…」

マヤが呟いた。
ワイは傘を構えた。

「誰だ! そこにいるのはわかってるんだ!!」

梗がたくさんの鎧兜があるところを指差していった。
ワイらも梗が指差した所を見た。
暫く沈黙が流れた。

「あの、こっちなんだけど…」

ワイらの後ろから呆れたような声がした。
ワイらは一斉に声の方を見た。

「え!? 嘘!!? さっきまでこっちにいた!!」

梗が恥ずかしそうに声をあげた。
声の主は、明らかに都会っこって感じの少年やった。

「いや、俺…ずっとこっちにいたんですけど…」

  少年が言った。
明らかに梗に呆れておる。

「そんな事は置いといて、こっから先には行かせないよ」

少年はワイらの前に立ちはだかった。
軟弱そうな都会っこに見えても、きっとどこかに強さを隠し持ってるんや。
要注意や。

「貴方…徹平くんじゃないの……?」

美優が少年を見て、驚いた顔をした。
ワイらは一斉に美優を見た。

「え…? 美優さん?」

徹平と呼ばれた少年も驚いた顔をした。
何だか顔が赤いように見えるで。

「知り合いなん?」

ワイは首をかしげ、美優に問うた。
美優はコクッと頷いた。

「最近うちの近所に引っ越してきた子よ。徹平くん!! 何で貴方かフライパン大魔王の仲間になってるの!?」

美優は真剣な顔で徹平を見た。
徹平はバツの悪そうな顔をして、うつむいた。

「何で!? 徹平くん!! 世界がどうなってもいいの!!?」

美優は必死に徹平に呼びかけていた。
徹平は黙っていたが、ポツポツと話し出した。

「だってさ…。あいつ、俺に…俺に、週刊誌を読ませてくれるんだ!!」

ワイは止めてないのに、時が止まったような気がした。
漫画みたいにコケようかと思ったが、それはベタすぎるので却下や。
とにかくワイらは開いた口が塞がらなかった。

「え? そんな理由で?」

マヤがびっくりした顔で問うた。
徹平は恥ずかしそうに頷いた。

「違う!! 本当はこんなバカらしい事やりたくなかったんだ!! 美優さんと一緒にフライパン大魔王を倒したかったんだ!! でも、でも…デス・〇ートの続きが凄く気になってたんだよ―――!!!」
「きゃ―――!!! お兄ちゃん、不潔よ―――!!!!」

突然甲高いキンキンした声がした。
徹平はまさか、という顔で声の主を見た。

「しょ、翔子!!」

徹平が見た先に立っていたのは女の子やった。
んー。可愛いが、ワイのタイプではあらへんなぁ。
翔子は徹平にヅカヅカと近づき、徹平の腕を取った。

「もう、お兄ちゃん遊んでないで帰るよ!! 部屋が汚いってお母さん怒ってるよ」

そして、そのままズリズリとひっぱっていった。
ワイらはあんぐりと口を開け、ただそれを見ていた。
な、何てパワフルな女の子や!!
でも〜…ワイのタイプやないな。

「と、取り合えず…進む?」

マヤがおそるおそる言った。
ワイらは全員頷いた。
なんやー不気味な城かと思ったら結構おもろいやん。




***




ワイらはさらに奥に進んだ。
途中巨大な冷蔵庫があった。
中を開けてみたら…パックの牛乳がいっぱいやった。
おもろい城より、変な城やな。

「もう、誰も出てこないよね…?」

梗がキョロキョロと周りを見ながら言った。
あ、何かギャグになっとる。

「ううん。まだ出てくるよ」

また声がした。
どんだけこの城人おるん?
声の主はワイらの前にいた。
帽子を被ってゴーグルをしている少年と、長い黒い髪を後ろで一本に縛っている背の高い少年やった。

城の外は雨が降っていた。
いや、雨というより豪雨と言ったほうがええかもしれへん。
遠くて雷も鳴っておる。

「徹平倒したんだ。凄いね」

ゴーグルの奴が言った。
さっきのセリフもこいつみたいやな。声が一緒や。

「まぁ、徹平は忙しい奴だから翔子が迎えに来たのかもな」

黒髪の奴が笑いながら言った。

窓の外がピカッと光った。
すぐにゴロゴロっていう音も聞こえた。

「貴方たちも邪魔をするの?」

美優が真剣な顔で問うた。
やっぱり華やかやな、この人は。

「そうだよ。フライパン大魔王の所には、いか……」
ピカッ!! ゴロゴロゴロッ!!!

空が光り、大きな雷の音がした。
雷の音でゴーグルの奴の声は消されてしまった。
そんなことよりさっきの雷は絶対どっかに落ちたで。

「うわっ!? 何!!?」

梗が少しパニックを起こした。
ワイの雷はどっかに落ちたっていうカンは当った。
それは、何故か…。
ここが停電になったからや!!

「うわっ…。こんな暗いと何にも見えないよー。オリオン!! 俺、停電直しに行くから連れてって!! 1人でいくと絶対迷う!!」

どこにいるかわからへんけど、ゴーグルの奴が叫んだ。

「OK! じゃあ、お前の上に絨毯広げるから乗れ! クウ!!」

オリオンと呼ばれた黒髪の少年が何かをやっている気配がした。
それから暫くした後だ。

「行くぜ!! クウ!」

という声がして、ワイらの真上を風をきって何かが通ったのは。
ワイらは取り合えずその場にじっとしていた。
こう暗くちゃ何にもわからない。が、電気は以外と早くパッとついた。

「あ、電気ついた」

マヤが呟いた。
やっぱり暗いのより、明るいほうがええな。

「さぁ、あの2人が来る前に行くで!! フライパン大魔王まであと少しや!!」

ワイは気合を入れなおした。
仲間たちは拳をぎゅっと握った。
あと少しや。あと少しで…。




***




「何やってるんだ? トキ」

トキの書いている物語から目を離すと、声が聞こえた。
声の主はこの部屋の主であった。
涼は学ランで、自分の机を使っているトキの後ろに立っていた。
どうやら学校が終わって帰ってきたみたいだ。

「べ、別に何もやってへんで?」

トキははぐらかすように言い、机の上に置いてある紙を隠そうとした。

「ん? 何だぁそれ。俺の机でやってたんだから見せろよ」

涼はトキの手から紙を奪って、読み始めた。

「んあ? フライパン大魔王と勇者トキだぁ? お前のどこが勇者なんだよ」

涼はバカにしたようにわっはっはと笑った。
涼はさらにページを進めた。

「てーか、これ書き途中じゃん!! しかも、お前文才ない! 展開早いし…。それに魔王の正体わかんねぇじゃん!! 魔王誰だよ?」
「あーそれは、魔王は涼やで。涼が魔王っ…あっ……」

トキはまるでいけない事をいったかのように右手で口を覆った。
トキはおそるおそる涼を見た。
涼はよく漫画であるように、目の部分が黒くなっている。

「へー。俺が魔王なんだ〜。へ〜……。ふざけんなっ!!!!」

涼がトキの腕を掴み、壁に向かって思いっきりぶん投げた。
その衝撃でトキが座っていた椅子が倒れた。
トキは壁に激突し、思いっきり背中を打った。

「う〜…。何するんやぁ〜…。涼〜……」

トキがあまりの痛さに泪をこらえながら言った。
涼はそんなトキを鼻で笑った。

「ふん。こんなものこうしてやる」

涼はビリビリと、トキの書いた物語を破った。

「うわぁ〜〜〜!!!! やめて―――!! ワイの作品!! 何て、殺生なぁ〜〜〜!!」

紙はヒラヒラと床に舞い落ちた。
トキはそれを悲しそうに見た。
そして、涼にすがるように泣きついた。

「だー!!! うっとうしい!!! 今日の夕食はオムライスにしてやっから!!」

涼は大声でそう言うと、ため息をついた。

「ホンマ!? さすが涼や〜。ワイ、オムライス大好きや〜」

トキはすぐにぱぁと明るい笑顔で子供みたいに笑った。




  結局、勇者トキは何をしても、何をやってもフライパン大魔王涼には勝てないのであった。




END




>>モドル

はい、番外編。これは元ネタを提供してくれたあずみ様に捧げます。

何だか高速展開になってしまったけど、まぁ、トキが書いてるからしょうがないか。
キャストは何だかオールキャストっぽいですね。
う〜ん。めちゃくちゃなトコもあるけど、気にしないで下さい。

書いてる時すっごく楽しかったです!!
あー面白かった。

BY銀
2008.6.9