ニンジンはどうしてニンジンか


「どうして、ニンジンはニンジンなんですか?」

この間、あたしが小学校の講師の助手で呼ばれたときに質問された言葉だ。
あたしはそのとき、ニンジンについて話していた。
どんなことを話していたかというと、ニンジンはセリ科で英名はキャロット。とか、まぁニンジンの作り方とかテレビの園芸番組で説明するようなことを説明した。

「質問はないですか?」

と、あたしは説明し終わったあとに聞いた。もちろん原産地はどこやら、ニンジンは好き? やらそんな質問が出て、それに答えた。
そして最後にでた質問がこれだ。

「どうして、ニンジンはニンジンなんですか?」

だ。問うた子は一番前に座っているみつあみの女の子。この子、おとなしそうな顔してまさかこんな難題をふっかけてくるとは!!

「えっと、それはですね……」

あたしはどこにでもいる大学生だ。ニンジン専門家でもなければ、ニンジンマニアでもない。
あたしは笑顔で応じていたが、内心冷汗ものだ。
何よりこんな質問、あたしは考えたこともないので、調べてもいない。そんな疑問もったこともない。
講師をあたしに任せっきりな、本当の講師の教授をチラリと横目で見てみると、笑顔で笑っているではないか。あの笑顔は何でもいいから答えなさいの笑顔だ。
ぶっちゃけ、あなたが答えてくださいという感じだ。いや、もしかしたら教授も知らないからあたしに任せているのかもしれない。

あたしはついに腹をくくった。こうなったら、それっぽいことを言うしかない。
あたしは短い間にこれまでないくらいに考え、頭をフル回転させた。

「それはですね、ニンジンは漢字で人参と書きます。直訳すると“人が参る”です。そもそもニンジンとはさきほど言ったように東洋系と西洋系のものがあります。どちらも日本原産ではなく、両方日本に伝わってきていますね。よーするに、“人が日本に参って伝わった”という意味で人参、もといニンジンなのです」

どうだ! さすがあたし。あたし頑張った。
あたしは小学生相手に勝ち誇った気分だ。

「そうなんだー……」

女の子は納得してくれた。ごめんよ、みつあみの子。あたしは嘘をついた。
でも、大人には嘘をつかなければいけないときがある。君もそれがいつかわかるだろう。




あたしはその後、家に帰りネットでニンジンについて調べてみた。少しでも合っていますようにと。
意外と「どうして、ニンジンはニンジンなんですか?」の質問の答えは、それほど苦労せずにみつけられた。
それはこう書いてあった。

『中国では、ニンジンは胡羅蔔と言い、胡は西域・シルクロードを意味し、蘿蔔ロポウはダイコンを指す。すなわち、西域から伝わったダイコン、蕃族のダイコンと言う意味である。なお、胡は西域地方を指すとともに、蕃族と言う意味もある。
元々、「ニンジン」と言うと、中国では高麗人参(朝鮮ニンジン)を示す言葉で、朝鮮ニンジンは植物分類学上はセリ科のニンジンとはまったく別のもので、貧血や精力減退に効果があることで名高い、ウコギ科の薬用植物である。日本に伝えられたニンジンは、その形が朝鮮人参と似ており、また同じ様な薬利効果もあるところから、ニンジンと呼ばれるようになった。』

なるほど。だから、ニンジンなのか。
あたしが言ったのはまったくの嘘だ。人参の漢字はまったく関係ないわけだ。
あたしはあることを思った。
きっとこの説明をしたらダイコンについても聞かれそうだと。あの子ならやりかねない。
いや、むしろあの子なら家に帰ってネットで調べているかもしれない。
調べたのなら、その答えをあのクラスの子たちには言わないでほしい。あたしの失態があきらかになるから。
でも、この質問がなければあたしは「なぜ、ニンジンか?」ということを一生考えずに生きていくのだと思うと、知識が増えたことに対してはあの子に感謝しなくてはならない。



>>モドル|

小説家になろう!に投稿したものです。
短編ー。

高校のときの先輩が実際に聞かれた質問です。
その質問から「これだ!」と思い書きました。