初恋


スノーリーは雪が嫌いだった。雪が降ると、パンが売れなくなり、父親はイライラしてくる。
まるで、母親出て行った時のように。

「どこでもいいから、パンを売って来いよ」

スノーリーの父親は売れないパンを見て、そう言った。明らかにイライラしている父親。
スノーリーも父親もわかっていた。どこに行っても、雪の中人なんていないってことを。
雪が降ってからは店を閉めることも考えた。


いつも通り雪の降る日。銀髪の可愛らしい女の子がやってきた。小柄で線の細い女の子。
赤い手袋をコートのポケットに押し込み、パンを選んでいる。
肌の色が白く、頬はピンク色で、目は宝石のように青い。
スノーリーは一瞬、冬の妖精でも入ってきたのかと思った。
女の子は、店番をしているスノーリーのところにクリームパンを持ってきた。
スノーリーはいつものように対応するが、女の子が気になって集中できない。
袋は中々開かないし、レジ打ちは間違えるし。女の子はそんなスノーリーを見て、クスっと笑った。
その笑顔を見た瞬間、スノーリーの心臓は音が高まり、その心臓の音に驚き女の子から貰った代金を落としてしまった。

「僕、一体どうしちゃったんだろう」

女の子が帰った後、スノーリーはそう呟いた。
あの子はただのお客さんなのに。あの子の笑顔が忘れられない。

「あれ? あの手袋。あの子のだ」

ふと、床に落ちている赤い手袋が目に入った。

スノーリーは寝ている父親を起こし、店を頼むと、コートを着て雪の降る外へと出た。
スノーリーは走って、女の子の後を追った。

「おーい! 待ってよー!」

スノーリーは女の子を見つけ、声をあげた。
女の子は振り返り、スノーリーを見た。

「あなた、パン屋さんの」
「これ、君のだろう。店に落ちていたよ」

顔が熱い。心臓も煩い。走ってきたからか、女の子の前だからかわからないけど。
女の子は手袋を見て、ぱぁあと笑顔になった。

「ありがとう! どこで落としたのかわからなくて困ってたの」
「そうか、良かった。はい、これ」

手袋を渡す最に、手が触れた。
その瞬間、スノーリーの鼓動は高まり、女の子にも聞こえてしまうのではないかと思うくらい、心臓は煩くドキドキしている。
触れた手が熱い。
手が触れただけで、笑顔を見ただけで、気分が舞い上がり、自分の体がおかしくなった。
また、あの子に会いたいと思ってしまう。スノーリーには、この気持ちが何なのかわからなかった。



>>モドル|

2012.3.3