リゲル


星の住みかに一通の手紙が届いた。

「リゲル、これお前宛だぞ」

何と、届いた手紙は僕宛だったらしく、オリオンがそう言って僕に持ってきてくれた。

「ありがとう、オリオン」

一体誰からの手紙だろう? 僕に手紙をくれる人なんていないはずだ。
僕は不思議そうに、手紙を見た。確かに宛名は僕宛だ。綺麗な字でそう書いてある。
でも、誰だろう? シャウラはオリオンの友達だし、アルカイドもオリオンの友達だし、 双子は手紙なんか出さずに星の住みかに来るはずだ。うーん、どこを見ても差出人の名前がない。
中を見なきゃダメかな。変な手紙だったら嫌だなぁ。
僕は手紙の封を切った。

「誰から?」

ベラトリックスが、僕の横から手紙を覗き込んだ。封筒の中には、綺麗に二つに折りたたんである便箋が一枚入っている。
僕は、それを取り出し、広げる。

「あ……」

文章の一番下に書いてある差出人の名前。それを見た瞬間、思わず声が漏れた。
この手紙はパパとママからだ。僕に許しをこうパパとママからの手紙。

「パパとママから」

僕は何事もなかったかのように言った。おかしいな、もう忘れたはずなのに。昔のことなのに、心が痛い。

「良かったじゃないか、リゲル。せっかくだし、逢いに行ってこいよ」

俯いていると、オリオンの優しい声が降ってきた。
顔をあげると、オリオンはニカっと笑い、情けない顔をしている僕の頭を撫でた。

「行って、文句の一つでも言ってやれ」

ペテルギウスが僕の髪をワシャワシャにした。余計、髪がツンツンしちゃった。

「一人が嫌なら私も一緒に行こうか?」

ベラトリックスが、しゃがみ僕と視線を合わせる。僕は、首を横に振った。
これは、僕一人でやらなければいけないこと。だから、大丈夫だよ。僕はもう、あの時の僕じゃない。

「大丈夫。一人で大丈夫だよ」

僕は自分に言い聞かせる。呪文のように、何度も何度も。本当にそうなるように。

「お前は大丈夫だよ、リゲル」

オリオンが僕の不安をかき消すように、ニカっと笑う。

「がんばれよ、リゲル」

ペテルギウスが僕の不安を吹き飛ばすように、肩をポンと叩く。

「無理しちゃだめよ? リゲル」

ベラトリックスが僕の不安を和らげるように、僕を抱きしめる。

「ありがとう、皆」

胸が熱くなる。皆の優しさで、僕は泣きそうになる。
だけど、ここは泣く所じゃない。僕の心の不安は消えていた。



このココロに残る傷跡は、ママにつけられたあと。
このカラダに残る傷跡は、パパにつけられたあと。

いくら泣いても、涙が枯れ果てなかったあの頃。
いくら助けを求めても、誰も助けてくれなかったあの頃。

でも、君は僕の直ぐ傍にいて、僕の傍で笑い、僕の話を聞いてくれた。
君のおかげで僕はまた、笑えるようになったんだよ?

ありがとう、ありがとう。何万回言っても足りない感謝の気持ち。
ありがとう、ありがとう。大好きだよ。



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