リゲル


あ、そろそろ家につくね。てか、実はもう家の前なんだ。
僕は勇気を出して、インターホンを押す。押した指が震えている。大丈夫、大丈夫。
あの時と同じように直ぐに「はい」というママの声が返ってきた。
僕が何かを言う前に、インターホンをガチャリと切り、足音が聞こえた。 足音はいつの間にか増え、玄関の前で止まり、玄関が開いた。

「リゲル!」

ママは僕見た瞬間、強く抱きしめた。

「よく来たな」

パパは笑って僕の頭を撫でた。

「良かった、良かった……。元気そうで、大きくなって……」

ママは泣いていた。何だかママが小さく見える。それだけ、僕が大きくなったのかな。

「リゲル、あの子は元気かい? パパたちがしていたことを過ちだと言い、過ちは反省することが出来る。 後悔しているなら、これからどうすればいいのか考えることが出来る。実行できる。 確かに過去は大切だけど、過去は変えられない。だったら、変えられる未来の方が大切だ。 今どうすべきか、本当はもうわかっているんだろ? と、教えてくれたあの少年は」

僕はパパを見た。パパ、それはオリオンのことだね。
あの後、オリオンは僕たちパパとママに考える時間を、 つまりこれからどうすればいいのか考え実行するには僕は一緒にいない方が良いって言ったんだ。
だから、今の僕はオリオンたちと一緒に住んでいる。

「ねぇ、リゲル。あれから四年たったわ。四年たって、ママたちは変わることが出来た。 ママたちはこの世で一番リゲルにしてはならないことをした。あの時のママたちはそれがわからなかったのね。 何故、あんなことになったのかも考えたわ。もう、絶対にリゲルを傷つけない。 もう、悲しい思いはさせない。だから、また家族で暮らさない?」

ママは僕を離し、僕を見つめた。僕は俯いた。ごめん、ママ。ママの申し出は凄く嬉しいけれど……。

「ママ。僕は今も昔も、これからもパパとママが大好きだよ。 もちろん、一緒に居たいと思ってる。でも、でもね、僕はまだオリオンたちと一緒に居たいんだ。 ううん、パパとママのことを恨んだことはないよ。ただ、ただね、僕はもっと色々なことを知りたいんだ。 もっと、オリオンに色々なことを教えて貰いたいんだ。だから、だからね……」

僕はいつの間にか泣いていた。パパとママに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
パパとママは残念そうな顔で、僕のことを見ている。

「だから……まだ、帰れない。僕が、すばるを抜けることができたら、真っ先にママとパパの所に帰ってくるよ。 だから、それまで待っていてくれる?」

結局、僕はあの時と同じで、泣き虫だ。もしかしたら、泣き虫は治らないのかもしれない。
僕にとって、パパとママは大切な家族だ。でも、オリオンたちは、オリオンは僕を変えてくれた大切な仲間だ。
まだ、ありがとうって言い足りないんだ。

「わかったわ。ママたち、リゲルが帰ってくるのをずっと待ってる。そしたらまた、三人で暮らしましょう?」

ママは優しく微笑んでいた。パパも。
僕たちはやり直せるね。ここまで来るのに、時間はかかっちゃったけど、元に戻せるね。
止まった、すれ違った時間を元に戻せる。そう、ほつれた糸を戻すように。
大切なのは、過ちを過ちで終わらせないこと。過ちを繰り返さないこと。
これは、オリオンが僕たち家族に教えてくれた。傷跡は残るけど、それはあくまで傷跡だ。それを乗り越えて強くなればいい。


もう少し話していたかったけど、時間が来ちゃったね。
これで、僕の話はおしまい。




オリオンへ
オリオンには、この僕のありがとうって気持ちが届いてる?




ここココロに残る傷跡は、ママにつけられたあと。
このカラダに残る傷跡は、パパにつけられたあと。

いくら泣いても、涙が枯れ果てなかったあの頃。
いくら助けを求めても、誰も助けてくれなかったあの頃。

でも、君は僕の直ぐ傍にいて、僕の傍で笑い、僕の話を聞いてくれた。
君のおかげで僕はまた、笑えるようになったんだよ?

ありがとう、ありがとう。何万回言っても足りない感謝の気持ち。
ありがとう、ありがとう。大好きだよ。  




END



 
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