リゲル


その後僕は、オリオンを家に連れて行った。
オリオンは小さく深呼吸をした後、インターホンを押した。
「はい」というママの声。オリオンが何かを言う前に、ママはインターホンをガチャリと切った。
足音がこっちへ向かってくる音がする。僕の家のインターホンにはカメラがついているから、僕の姿が見えたんだろう。
足音は玄関の前で止まり、勢いよく玄関が開いた。

「リゲル! こんな時間に何をしてるの! また、すばるとか訳のわけらないことを言うの? どうしてあんたはそうなの。 ママを困らせないでちょうだい!」

玄関が開いて直ぐ、星空の下、ママの怒鳴り声が響いた。
隣の家までは距離がある。多分聞こえないだろう。
それからも、ママは訳のわからないことを怒鳴り、「あんた何か生むんじゃなかった!」と最後に言い放った。
僕は、悲しくて、泣きそうになった。いや、もう泣いていたかもしれない。

「おい! あんた! 何てこと言うんだ! リゲルはあんたの息子だろ? 何でそんな酷いことが言えるんだ! それで、 あんたは傷つかないのかよ!?」

オリオンがそう言い放った瞬間、ママはジロリとオリオンのことを睨んだ。

星空が雲で覆われ、ポツリ、ポツリと雨が降ってきた。

「何で母親であるあんたが、リゲルを傷つけるんだよ。本当はいけないことだって、 あんたもわかってるんじゃないのか? だったら、どうして……。あんたに嫌われたらリゲルはどうすればいいんだよ……」

オリオンが泣いている気がした。僕のために、涙は流していなかったけど、泣いている気がしたんだ。
そうか、雨がオリオンの代わりに泣いているんだ。僕の代わりに、パパやママの代わりに……。
僕の中にある苦しみや、ママの中にある苦しみを洗い流そうと、世界中の悲しみを洗い流そうと……。
その時降っていた雨は冷たくなくて、暖かく感じた。僕はそのことを今も覚えているよ。


今の僕は歩いている。
駅に着き、自分の足で家に向かわなければならなくなった。
でも、僕は歩いている。
自分の足で、一歩づつ。ゆっくりだけど、確実に。


あの後、パパが何事かと思い、外に飛び出してきた。

「あんたがリゲルの父親?」

オリオンはパパを見て言った。パパは何も言わなかった。暫くして、一つ頷いただけだった。

「なら、どうしてリゲルを傷つける? リゲルが生まれた時、どんな気持ちだった? 嬉しくなかった? 幸せじゃなかったのかよ」

オリオンの声は何だか悲しそうで、頬には雨なのかもしれないけど、涙の流れたあとがあった。



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