僕と蝉と向日葵と


8月1日。夏休み。
僕たち家族は、最後の家族旅行に来た。行き先は皆で決めたけど、そこを提案したのはお父さんだった。お母さんはそれに対してはとくに反応を見せなかった。それは、これから住むところだからか、それとも前に住んでいたからなのか。とにかく僕たち最後の家族旅行は、僕がまだ小さい時に住んでいた田舎のおばあちゃんの家だった。

「だから私は言ったんだ。結婚はよく考えろと」

おばあちゃんが、おじいちゃんの仏壇に手を合わせている自分の娘である僕のお母さんにそういうのが聞こえた。それからも、おばあちゃんは1人でぶつぶつと文句を言っている。そのためか、お父さんもお母さんもばつが悪そうな顔をしていた。
僕はなぜ、お父さんとお母さんが離婚するのかは知らない。ただ、突然そう言われた。僕は友達と離れるのが嫌だったから、お父さんにつくと言ったらお姉ちゃんはお母さんにつくと言った。その時のお姉ちゃんの顔は、なんだか複雑そうだった。そう。僕とお姉ちゃんはこの夏が過ぎれば苗字も住むとこも別々になってしまうのだ。それに、お父さんは何で最後の旅行にここを選んだんだろう?

「明、ちょっとおいで」

おばあちゃんとお父さんとお母さんの間で気まずい空気が流れる中、僕はお姉ちゃんに呼ばれた。お姉ちゃんは今、中学生だ。むこうでは私立の中学に通っていたけど、こっちでは公立でしかも共学の中学に通うことになっているらしい。お姉ちゃんのいたところは女子中で、大学までエスカレート式でいけるという名門の学校だった。
一方僕は、私立に入れる頭もなく、公立の中学に通っている。頭以外にも、運動神経もよくないからお姉ちゃんにとろいといわれてよく怒られていた。

「早くしな!!」

ほら、今だって。僕は大股であるくお姉ちゃんの後を追い、外に出た。部屋を出たところにお姉ちゃんの姿はなく、お姉ちゃんは玄関の方に向かっていた。お姉ちゃんが外に出たころに僕はやっと追いつくことができた。

「遅い!!」

お姉ちゃんは僕の頭を軽く殴った。少し痛かった。
お姉ちゃんはいつも怒ってばかりだ。お父さんもお母さんも、僕だってそんなに怒りっぽくない。

「お姉ちゃん、どうしたの?」

僕は殴られたことにはつっこまない。深入りすると余計に僕が痛い思いをするから。これがお姉ちゃんと暮らす中で得た知識。きっと、お姉ちゃんほど扱いに困る人はいないと思う。

「あんた、どうしてお父さんとお母さんが離婚するか知ってる?」

お姉ちゃんは相変わらず不機嫌そう。僕はお姉ちゃんのことを蝉みたいだ、と思ったことが何度もある。蝉は7年間土の中にいて、最期の1週間を力の限り鳴く。うるさいくらいに。蝉の生き方には、何か哲学とか、言葉では表現できない生き方みたいなものだと思うけど、お姉ちゃんは違う。生き方が蝉に、にているんじゃなくて、うるさいところが似てるんだ。夏になるとうるさくなるところとかは蝉そのものだ。
でも、勘違いしないでほしい。いくらお姉ちゃんがうるさくても僕はお姉ちゃんを嫌いじゃない。むしろ、好きかもしれない。でも、やっぱりそんなに好きじゃないかもしれない。でも、姉弟ってそーゆうもんでしょ?

「知らないよ」

僕はお姉ちゃんの問いに、そう答えた。と、いうか実際そうだからそれしか答えられなかった。

「ふーん、そう」

お姉ちゃんは愛想なく言った。お姉ちゃんはいつも怒った顔をしている。

「お姉ちゃんは知ってるの?」

僕は問う。こんなとこまで来たんだから、お姉ちゃんはきっと何か知ってるんだ。あんまり聞きたくないけどね。

「知らない。でも、ここに来る前にお母さん、電話で男の人と話してた。もしかしたら、その人に関係しているのかもしれない」
「それって……お母さんの不倫!!?」

僕はおもわず、声のトーンがあがり、自然と声が大きくなった。誰だって驚いたら声が大きくなる。それなのに、お姉ちゃんはまた僕を殴った。

「いったぁ……」

さすがに2回目ともなるといくら僕でも不機嫌になる。でも、お姉ちゃんはもっと不機嫌になった。

「声が大きい!! それはわからなけど、確か名前は末石って言ってた気がする。最初に電話をとったのはわたしだから知ってるんだけど……」
「それで、お姉ちゃんはどうするの?」

僕は頭の回転が遅い。頭を使うことも苦手だから、お姉ちゃんのいいたいことがよくわからない。お姉ちゃんはまた不機嫌になった。

「どうするも、こうするもない。その男の人を探すんだよ。ここは、田舎だし人は少ないから探すのは難しくないと思う」
「でも、お姉ちゃん。それは、本当にここの人?」

僕は正しいことを言っていると思う。なのに、お姉ちゃんはまた僕のことを殴った。今回はさっきより痛かった。

「私がでたときにお母さんと中学が一緒って言ってたの。それをしらなきゃ探そうだなんていわないよ」

何もそんな言い方しなくてもいいじゃないか。お姉ちゃんの意地悪。でも、お姉ちゃんに逆らえない僕は、結局お姉ちゃんに協力しちゃうのです。



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