僕と蝉と向日葵と


8月2日。
僕たちはこの日から行動を本格的にスタートした。相変わらず蒸し暑く、蝉はミンミンいっている。お姉ちゃんもブツブツと暑さに対して文句を言っている。

「暑い……」

お姉ちゃんは日陰を好んで歩いているが、ここがど田舎。田んぼとか畑しかないから、そんなに日陰はなくついにお姉ちゃんは僕に日陰になれと言いだした。

「そんなに暑いかな……?」

僕はひとりごとのように呟いた。ここは、緑がいっぱいあって、都会より涼しいと思う。風もあるし。
都会は、ほら、ナントカアイランドっていうやつでしょ? それなのにお姉ちゃんは贅沢だと思う。

「私は暑さに弱いの!!」

お姉ちゃんは暑さでイライラしていた。そんなにお姉ちゃんは暑さに弱かったっけ?
でも、そもそもお姉ちゃんがいけないんだ。お姉ちゃんが昼まで寝てるから、こんなに一番暑い時間に外に出なきゃいけなくなったんだ。お姉ちゃんのせいだ。
僕たちは夕方まで“末石”という家を探した。だけど、そんな家は見つからない。人は少ないけど、家は大きく、隣同士の感覚も広い。もしかしたら都会より人を探すのは難しかったかもしれない。
畑とかにいる人に聞けばよかったけど、僕たちは都会っ子。そんな勇気も度胸もなかった。

「あーもう!! いったいなんなのよ!?」

黄昏時、僕たちは神社へと続く長い階段の上に座っていた。ずっと歩き、そして見つからず、案外広いこの田舎にお姉ちゃんが悪態をつきはじめた。
まぁ、広い、暑いで実際はちゃんと表札を見てなかったり、そもそも表札のない家もあった。

「ねぇ! 何やってるの?」

突然、僕たちは声をかけられた。道のとこに向日葵をかかえた1人の男の子がいた。

「帰らないの?」

男の子はさらに続けた。麦わら帽子をかぶって、田舎っこだけどここの村の子なのかな?

「ねぇ、あんた末石っていう家しらない?」

お姉ちゃんはその男の子にそう聞いた。だけど、その男の子はもうどこにもいなかった。僕たちがその男の子から一瞬目を離したすきにいなくなってしまった。まるで、そこには誰もいなかったかのように。
僕とお姉ちゃんは何だか怖くなり、その場から立ち上がり家にむかった。
僕たちは黙って歩いた。ただ、黙って。

「あれ? お姉ちゃん、ここさっき来なかった?」

僕はさっき見た見覚えのある木を見てお姉ちゃんにそう言った。だけど、お姉ちゃんは何も言わない。僕たちはまた黙って歩いた。
本当はとても不安だ。僕もお姉ちゃんも。だって、今僕たちは見たこのとない場所を歩いているから。

「お、お姉ちゃん!!」

僕は少し泣きそうな声だった。お姉ちゃんはイライラしていた。でも、不安そうに見えた。
だんだん暗くなってきた。そのせいか、僕たちはどこにいるのかますます解らなくなった。
ここには住んでいたことがあるのに、どうして僕たちは今頃になって迷うんだろう? 迷ったなんて認めたくなかったけど、僕たちは迷っている。

「お姉ちゃん……」
「うるさいよ。まっすぐ歩いていればつくの!!」

やっぱりお姉ちゃんは怒っている。そして、早足でまっすぐ歩いている。僕もあとを追った。しばらく歩いていると明かりが見えた。僕とお姉ちゃんはそれにむかって走り出した。
その光りの先にあったものは……それは……一面に広がる向日葵畑だ。

「お、お姉ちゃん、あれ!!」

向日葵畑の中にさっきの男の子がいたのを僕はみつけた。

「さっきの子!!」

お姉ちゃんはそう言い、向日葵畑の中をずかずかと突き進んだ。僕もどうしようかと思ったけど、お姉ちゃんに続いた。

「ねぇ!」

お姉ちゃんはさっきの男の子に話しかけた。男の子は僕たちの方を見た。

「あれ? 君たち、まだ帰ってなかったの?」

男の子は少し驚いた感じでいった。

「もしかして迷っちゃったのかな?」

今度は楽しそうに言い、僕とお姉ちゃんは頷いてみせた。そして、僕とお姉ちゃんはその次の言葉を待った。

「じゃあ、案内してあげるよ。ついてきて」

僕とお姉ちゃんは期待通りの言葉を聞き、嬉しくなり鼻歌を歌いながら歩いて行くその子の後をついていった。
その子はずっと鼻歌を歌っていた。聞いたことのない歌だ、でもどこかで聞いたことがある。

「その歌……お父さんとお母さんが昔子守唄でよく歌ってくれた」

お姉ちゃんはそう言い、その子と一緒に歌った。あ! そうか、子守唄だ! 僕も聞いたことがある。

「そうなの? 僕のパパとママもよく歌ってくれたよ」

その歌はいつしか鼻歌ではなく、合唱のようなものになっていた。あのお姉ちゃんですら、誰にも負けない大きな声で歌っていた。

「あれ?」

突然見覚えのある場所についた気がした。歌はやみ、さっきのあの子はいなくなっていた。

「お姉ちゃん! あの子いないよ!?」

僕はびっくりしてお姉ちゃんに言った。だけど、あのお姉ちゃんも驚いている。そして、お姉ちゃんのいう通りまっすぐ歩いていると、家が見つかった。
このあと、お父さんたちに怒られたのはいうまでもない。



BACK|モドル|>>NEXT