僕と蝉と向日葵と
 
  
8月3日。 
お姉ちゃんは相変わらずあの末石って人を探すってはりきっているみたいだけど、僕の方は昨日のことの方が気になっていた。 
それで僕は聞いてみることにしたんだ。あの向日葵畑のこととあの男の子のことを。お父さんに。 
ついでに末石って人のことも聞いてみよう。本当はお母さんの方がいいんだろうけど、お母さんは朝からいないし。それに最近のお母さんは何か変だ。沈んでいることが多い。 
それと改めて思ったけどお姉ちゃんはお母さんにもお父さんにも似ていないらしい。皆そういうんだ。どいやら僕だけが少し感覚がずれていたのかもしれない。
  
「お父さん」
  
僕はお父さんにあの向日葵畑のことを聞こうと思い、お父さんを探した。お父さんは庭で自分の携帯電話から誰かに電話をかけていた。
  
「お? 明? どうした? あ、いや。なんでもない。私の息子だよ、あとでかけなすから」
  
お父さんは僕に気づき、僕の方を見、電話の相手にそう言った。そして電話をきり、すぐにズボンのポケットにしまった。ストラップがポケットから出ている。
  
「電話誰だったの?」
  
僕はただの好奇心で聞いてみた。ただ単純に誰だろうって思っただけだ。深い意味はない。
  
「あ、うん。会社の人だよ。別に急ぎではないようだったみたいだか……でも、お父さんもあまり仕事を休めないからな。そうだね、ちょうど1週間の有給はとったけど、それを過ぎたらむこうに帰ろうと思うんだ。明も一緒にくるかい? それとも夏休みの間はこっちにいるかい?」
  
そうか。僕はお父さんと向こうに帰らなきゃいけなかったんだ。 
僕のお父さんとお母さんは大学で知り合ったらしい。そこで知り合い、2人は結婚し、おじいちゃんの具合が悪かったからしばらくはここに住んでいたらしい。 
僕たちが住んでいたとこはここから近くもなければ遠くもない。日帰りで行って帰ってこれる距離だ。でも、お父さんがある日会社でえらくなって早く行かなくちゃいけなくなった。それでお父さんは1人向こうに行った。 
そして、お姉ちゃんが小学校にあがることに僕たちも向こうに行ったんだ。その時にはおじいちゃんも死んじゃって、お母さんはおばあちゃんを1人置いて行くのは嫌だったみたいだけど、こっちにはおばさんがいたから。そのおばさんにはよく遊んでもらった記憶がある。 
小さいころの僕もお姉ちゃんもお父さんがいなくて寂しい思いをしたのを覚えている。 
でも、今まさにお母さんとお父さんは離婚しようとしている。ちなみにまだ離婚はしていない。どっちがいいだしたのかはわからないけど、僕は離婚しないでほしいと思っている。
  
「うん、行くよ」
  
でもしょうがないじゃないか。僕はそう答えるしかなかった。お父さんは僕の頭をなでた。お父さんの顔を見た瞬間、僕は何も言えなくなってしまった。 
居間の方にいくとおばあちゃんが苦しそうに咳をしていた。そういえば、おばあちゃんは最近よく咳きこんでいるのを見かける。おばあちゃん、風邪でもひいたのかな?
  
「おばあちゃん、大丈夫?」 
「あぁ、明いたんかい。すなまいがコップに水をこんできてくれんか?」
  
おばあちゃんはそう言って笑った。僕は頷き、すぐに水を持ってきた。おばあちゃん、少し落ち着いたみたいだ。僕はおばあちゃんが好きだ。お母さんはおばあちゃんにそっくりだと思う。
  
「そうだ、おばあちゃん。この辺に向日葵畑ってある?」
  
そうだよ。おばあちゃんなら何かわかるかもしれない。だって、ずっとここに住んでいるんだから。
  
「向日葵畑? 最近はとんと見かけないねぇ。前はたくさんあったんだが」
  
おばあちゃんは昔を懐かしむように言った。じゃあ、僕たちが見たのはなんだったんだろう?
  
「向日葵か、なつかしいねぇ」
  
僕が考え込んでいるとまた、おばあちゃんが昔を懐かしむようにいった。だけど、その表情はどこか寂しそうに見えた。
  
「向日葵に何か思い出でもあるの?」 
「何だい。わすれちまったのかい? 毎年この季節になるとどうしてここに来ているんだい?」 
「お墓参り?」
  
そう。僕たちは毎年夏になるとお墓参りにここに来る。そこにはおじいちゃんも眠っている。でも、お母さんたらおかしいんだ。 
ふつうお墓には菊とかをあげるのに、向日葵なんだ。僕がその理由を聞くとお母さんは「あなたのお兄ちゃんは向日葵が大好きだったのよ。お兄ちゃんもね」って言った。 
あ、そうだ。僕とお姉ちゃんにはお兄ちゃんがいたんだ。僕は一度も会ったことはないけど、お姉ちゃんはどうなんだろう?  
確かお兄ちゃんは小さいころに事故で死んじゃったってお母さんが言ってた気がする。何でこんなこと忘れちゃっていたのかな? お姉ちゃんは覚えているかな?
  
「ほんとにあの子は向日葵みたいな子でね。宝物だったよ。今の2人をみたらあの子がどう思うか……」
  
おばあちゃんはため息をついた。もしかして、おばあちゃんも僕たちと同じ気持なのかもしれない。 
けっきょく僕はおばあちゃんがあんまりにも悲しい顔をするからあの男の子のことも、末石って人のことも聞けなかった。でも、僕はおばあちゃんが話してくれたことをお姉ちゃんに話してみた。
  
「私は覚えていたわよ。会ったことはないけど」
  
お姉ちゃん、相変わらず機嫌が悪そうだ。でも、お姉ちゃんがあったことがないってことはお姉ちゃんの生まれる前に死んじゃったってことだよね? それかまだお姉ちゃんが赤ちゃんの時に。そういえば名前はなんていうんだろう? 
あ、そうだ。お母さんは朝から病院に行っていたらしい。昼ぐらいには帰ってきたけど、それからずっとおばあちゃんと何かを話しこんでいた。その時もおばあちゃんは咳きこんでいた。
 
  
 
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