僕と蝉と向日葵と


8月7日。続き。
僕とお姉ちゃんは、お父さんとお母さんを部屋に連れ込んだ。先に口を開いたのはお姉ちゃんだった。

「お父さん、お母さん。離婚なんてしないで」

お父さんとお母さんは、お姉ちゃんをじっと見ていた。

「別々に暮らすなんて嫌だよ。みんな、一緒にいようよ」

お姉ちゃんは泣きそうだった。僕は手に持っているひまわりを思い出した。

「お父さん、お母さん、これ!!」

僕はそう言って、男の子から渡されたひまわりをお父さんとお母さんに渡した。
2人は受け取ってくれたけど、何が何だかわからないという顔をしていた。

「このひまわりはお兄ちゃんがくれたんだよ! 葵お兄ちゃんが! おばあちゃんにあげたひまわりもお兄ちゃんがくれたんだよ! お兄ちゃん、言ってたよ。ずっと家族でいるって言ってたのに、って。だから、僕たちのためにも、お兄ちゃんのためにも離婚するだなんて言わないで!!」

僕は必死でお父さんとお母さんに訴えた。

「そうだよ!! 離れ離れになるなんて嫌だよ!!」

お姉ちゃんは目から大粒の涙をこぼした。そのお姉ちゃんの涙を見てたら、僕も泣いてしまった。
あの時、声にだして泣いてしまったように、声をあげて泣いてしまった。

「嫌だよ、うわぁあぁあああん」

お姉ちゃんも声をあげて泣いた。お父さんとお母さんは、そんな僕たちを困った顔で見ていた。
だけど、僕たちが泣きやむまでそばにいてくれた。泣きやむまで待っていてくれたんだ。

「お兄ちゃんに会ったって本当?」

泣きやんだあと、お母さんがそう聞いた。お姉ちゃんは涙をぬぐいながらコクンと頷いた。

「聞いても、そうだとは言わなかったけど、そうだよ」

お姉ちゃんは、また涙をぬぐった。そして、「お兄ちゃんがいるところに連れて行ってあげる」と続けた。


僕たちは、お兄ちゃんのお墓ではなく、お兄ちゃんと初めて会った場所に2人を連れて行き、自分たちの記憶を頼りにあのひまわり畑へと向かった。
そして、やっぱりあったんだ。あの、ひまわり畑が。

「ひまわり……?」

お父さんはそのひまわり畑を見て、不思議そうな声を出した。お母さんも驚いていた。
僕とお姉ちゃんはお兄ちゃんの姿を探した。お兄ちゃんは、ひまわり畑の中から、こっちを見ていた。

「ほら、あそこ! あそこにお兄ちゃんがいるよ!」

お姉ちゃんは、お父さんたちにお兄ちゃんの居場所を教えた。
どうか、お父さんたちにもお兄ちゃんのことが見えますように。
そう祈ったからか、どうかは知らないがお兄ちゃんの姿は、ちゃんとお父さんたちにも見えて、お父さんもお母さんもお兄ちゃんのことを見ていた。
先に口を開いたのは、お兄ちゃんだった。

「僕との約束破らないでよ。ちゃんと、家族でいてよ」

お兄ちゃんの言葉に、お父さんとお母さんははっとしたような顔をした。
お母さんは、はっとして口を覆った。

「ちゃんと、僕たちの両親でいてよ」

お母さんはお兄ちゃんに駆け寄り、お兄ちゃんを抱きしめた。
そして、泣いていたんだ。お父さんもお兄ちゃんに駆け寄った。
そして、お母さんごと、お兄ちゃんを抱きしめた。


それから、2人は話し合い、離婚するのをやめた。
何で、離婚しようと思ったのかは教えてくれなかったけど、僕たちはこのままおばあちゃんの家に住むことになった。
お父さんは、おばあちゃんの家から会社に行くことになった。
あれから、お兄ちゃんの姿は見えなくなった。
だけど、お兄ちゃんはちゃんとここにいて、僕たちの家族なんだ。夢でも、幻でもない。
お兄ちゃんはちゃんと、そこにいたんだ。



「明、ほら早く!!」

お姉ちゃんは相変わらず、僕のことをすぐ叩き、蝉のように煩い。
でも、僕はこんなお姉ちゃんが好きだよ。だって、家族だもん。
それに、あの不思議な出来事を一緒に体験したんだ。
お姉ちゃんが、早くお兄ちゃんのお墓に行きたいのもわかる気がする。
おばあちゃんの具合もよくなり、おばあちゃんは家に戻ってきた。
僕たちはずっと、家族だった。これからも、この先も、この後も家族なんだ。
そして、やっと家族の夏が始まった。




END




BACK|モドル|

僕と蝉と向日葵と、これにて完結でございます。
今回は家族愛がテーマです。本当は色々もっと考えていたんですけどねぇ。

2011.11.26