僕と蝉と向日葵と


8月7日。朝。
予定通り、男の子がきた。
僕たちが起きたときには、お父さんとお母さんはいなかったけど、どこに行ったのかな? 
おばあちゃんのところに行ったのかな?
お姉ちゃんは、男の子にお茶を出したけど、男の子は手をつけなかった。

「話して。何があったの?」

男の子は真剣だった。僕はお姉ちゃんを見た。
お姉ちゃんが話すのを待っていたんだ。

「離婚の話はしたよね? それで、お父さんが浮気なんじゃないかと思って……」

お姉ちゃんも真剣だ。あの時は、ちゃんと男の子には伝えなかった。
途中で泣いてしまったから。
男の子は、キっとお姉ちゃんを睨んだ。お姉ちゃんは、たじろいだ。

「……ずっと、家族だって言ってたのに……」

男の子はお姉ちゃんをとがめているわけではない。
だけど、お姉ちゃんは自分が咎められている気分になり、下を向いた。

「僕、お父さんとお母さんに離婚しないでって言う!!」

今までお父さんとお母さんにそう言ったことはない。
でも、こんな回りくどいやりかたはダメなんだ。ちゃんと、自分の声で伝えないと。

「私も! 私も言う!!」

お姉ちゃんも前を向き、そう言った。
男の子は、僕たちのそんな様子をみて、笑った。
もしかしたら、この子は何が大切かを教えるために、僕たちの前に出てきてくれたのかもしれない。
だって、僕たちは気づいたんだもの。大切なことに。
お姉ちゃんは男の子の方を向いた。

「貴方、葵お兄ちゃんでしょ? 死んじゃった葵お兄ちゃんなんでしょ?」

お姉ちゃんは、前にもした質問を男の子にした。
あの時、男の子は何も言わなかった。けど、今回も男の子はただ、笑うだけで何も言わなかった。
そして、僕たちに2本のひまわりをくれた。

「これをお父さんとお母さんに渡しておいて」

男の子はそう言って、また笑った。
そして、男の子はそのまま部屋を出て行ってしまった。

「待って!」

お姉ちゃんがそう言って、男の子の後を追いかけた。
僕も追いかけたんだけど、もう男の子はいなくて、お父さんとお母さんがいた。
2人とも、病院から帰ってきたんだ。

「明、お姉ちゃん?」

お母さんは、急に僕たちが部屋から出てきたからすこし驚いていた。
僕たちも驚いたけど、僕たちは腹をくくった。



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