僕と蝉と向日葵と
 
  
8月6日 帰って来てから。 
お姉ちゃんは、とんでもないことを言い出した。それは、
  
「山村に電話をかけてみるわよ」
  
だ。僕はびっくりした。だけど、やめた方がいいとは言えなかった。 
だって、僕も気になっていたから。 
お姉ちゃんはやると決めたことは、すぐやるタイプでお父さんからケータイゲームをやりたいと言って、ケータイを借りてきた。 
そういえば、お姉ちゃんはよくお父さんから、ケータイに入っているテトリスがやりたいって言ってよく借りてたっけ。 
お姉ちゃんは、リダイアルをし、すぐに山村に電話をかけた。 
僕も電話の音を聞こうと、ケータイの近くに行き、音が聞こえるようにした。 
ケータイは、今やっと村山を呼び出し始めた。
  
「もしもし、どうしたんですか?」
  
3コール目で繋がった。山村は女の人だった。 
お姉ちゃんは緊張してしまったのか、何も言えなくなってしまった。
  
「もしもし?」
  
村山は不審そうな声を出した。 
そりゃ、そうだよね。誰も何も言わなければ不審がる。 
僕はお姉ちゃんからケータイをひったくった。
  
「あ、あの! 山村さんですか!?」 
「そうですけど……。これ、木下さんのケータイですよね?」
  
僕は何を聞いているんだろう。 
山村にリダイアルしたんだから、山村に決まっているじゃないか。 
山村は、一体なんなの? という感じだ。 
僕が何て言えばいいのか、困っていると今度はお姉ちゃんにケータイをひったくられた。
  
「私、木下の娘です。貴方、なんなんですか? お父さんと浮気しているんですか?」
  
僕は耳をケータイに近づけた。 
なんとか、向こうの話している声が聞こえる。 
お姉ちゃん、ずいぶんと直球だな。
  
「え? な、何を言っているの?」
  
山村はとまどっているような声を出した。 
お姉ちゃんが、何かを言おうとした時、後から誰かにケータイをとられた。 
急だったから、僕たちはびっくりした。お父さんかと思った。
  
「お父さんを困らせることはダメだよ」
  
だけど、それはお父さんではなく……。
  
「あんたは……」
  
ひまわりを持ったあのときの男の子だった。 
男の子はケータイをきり、テーブルの上に置いた。
  
「たとえ、お父さんが浮気をしていたとしても、こんなことはしちゃダメだ」
  
男の子は真剣な顔でそう言った。
  
「僕は、もう帰らなきゃいけないから、明日詳しく話してほしい」
  
男の子はそう言って、姿を消した。 
僕とお姉ちゃんは、急なことで呆然と立ち尽くすことしかできなかった。 
そして、何てことをしようとしてたのかと、後悔した。
 
  
 
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