僕と蝉と向日葵と
8月6日 昼
僕とお姉ちゃんは昨日のことが気になってしょうがなかった。
お母さんは相変わらずおばちゃんにつきっきりだし。
でも、僕たちの中である結論がでた。
もし、浮気していたとすれば、それはお父さんのほうだって。
僕は、あながち間違っていないと思う。
僕とお姉ちゃんは、おばあちゃんのいる病院に向かっていた。
「やっぱり、私はお父さんだと思う。あの村山って人、怪しいよ」
お姉ちゃんは昨日からそう言い続けている。僕も、心のどこかでそう思っていた。でも、お父さんと信じたかった。
「そういえば、あの時の男の子。何か知っているんじゃないかなぁ」
お姉ちゃんは独り言のように呟いた。それからは、ずっと無言で歩き続けた。
病院はちょっと遠かったけど、お母さんが毎日のようにこの道を歩いているかと思うと、疲れたとか言いたくなかった。
「あ!お姉ちゃん!!」
僕は病院の前で、この間の男の子がいるのを見つけた。
中に入りたいのか、たくさんのひまわりを抱えて、病院の入り口のところでうろうろしている。
お姉ちゃんは走っていき、男の子の肩をポンっと叩いた。
男の子は、一瞬ビクッとしてこっちを見たけど、僕たちだとわかると緊張を解いてくれた。
「誰かのお見舞いにきたの?」
お姉ちゃんが男の子に問うた。男の子はコクンと頷き、
「あの、これ渡しておいてほしんだ」
と、腕いっぱいに抱えたひまわりを僕に押し付けた。
男の子は、この間僕が投げかけた疑問にまた答えていない。
でも、ひまわりを渡すってことは、きっとそうなんだろう。
「うん。渡しておくよ」
僕はおとさないように、しっかりとひまわりを抱えた。
お姉ちゃんも何も言わなかった。そして、男の子はいつものように消えてしまった。
うん、あの子は絶対僕たちのお兄ちゃんだ。昔に死んでしまって、いつもこの時期にお墓参りにいくお兄ちゃんだ。
「ちょっと持ってあげるよ」
お姉ちゃんはそう言って、半分のひまわりを持ってくれた。
僕たちは病院の中に入った。大量にひまわりを持っているから、みんなに見られたけど、恥ずかしいとかは思わなかった。
確か、おばあちゃんの病室は6階だったよね。
僕とお姉ちゃんはエレベーターに乗り込み、6階のボタンを押した。
「今、ちょうどお昼みたいね」
エレベーターを降りて、お姉ちゃんが食事を運んでいる看護師さんを見て言った。
僕たちは遅くに起きて、ご飯も遅かったからあんまりお腹が減ってはいないけど。お母さんはすごく疲れているんだと思う。
お母さんに、何か持ってくればよかったなぁ。僕とお姉ちゃんは少し後悔した。
おばあちゃんの病室には、やっぱりお母さんがいた。
「あら、お花持ってきてくれたの?」
お母さんは少し驚き、笑顔でそう言った。
そして、ひまわりを活ける花瓶を用意してくれた。花瓶には、枯れかけているガーベラが入っていた。
「お母さん、大丈夫?疲れているんじゃないの?」
「大丈夫よ。今日は早めに帰るわ」
お母さんはそう言ったけど、絶対無理している。そう問うたお姉ちゃんもそれを感じているみたい。
おばあちゃんは点滴をされ、眠っていた。
「綺麗なひまわりね。どこで、とってきたの?」
お母さんは、ひまわりを活けながら問うた。
「男の子がくれたんだよ。凄く、心配していたよ」
僕が言おうと思ったのに、お姉ちゃんに先をこされた。
「そう……。もしかしたら、あの子がくれたのかもしれないわね」
お母さんは誰がくれたのか解っているみたいだった。
「お母さん!離婚しちゃ、嫌だよ!みんな、一緒にいようよ!!」
僕は自分の感情がこみあげ、ついに言ってしまった。
でも、誰も何も言わなかった。お母さんは寂しそうに笑っただけだった。
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