僕と蝉と向日葵と


8月5日。
お母さんはお昼くらいに帰ってきた。何だか、1日だけなのにやつれたように見えた。

「お母さん、話があるの」

お姉ちゃんはそんなお母さんを連れだした。
本当は休ませてあげたかったけど、しょうかないんだ。
きっと、お姉ちゃんはあの事を聞くんだ。何だか緊張してきたぞ。

「何で離婚するの?」

お姉ちゃんはお父さんに聞いた時と同じように、単刀直入に聞いた。
お母さんはお姉ちゃんの言葉を聞いて苦笑した。

「離婚はね、お父さんが言いだしたことなの。別居なら離婚の方がお互いに気を使わなくてもいいからって」

お母さんは何だか、どこか寂しそうに見えた。

「じゃあ、お母さんはまだおばあちゃんのところに行くからね」

お母さんは僕とお姉ちゃんの頭を撫で、また病院に向かった。その後ろ姿がどこか、はかなくみえた。
お母さんが、多分、家を出たころかな? 突然、どこからともなく着信音が聞こえた。

「これ、お父さんの?」

お姉ちゃんは音の鳴る方を見て言った。うん、確かにお父さんのだ。
お母さんはケータイ持っていったし、僕たちは持ってないし。そう考えるとお父さんのしかない。

「随分と長いわね。電話かな?」

着信音が鳴り続けている。
僕もお姉ちゃんもケータイを持っていないから、よくわからないんだけどメールだったらすぐに音がやむのは知っているんだ。

「まだ鳴ってるね」

あんまりにも長く鳴っているため、僕とお姉ちゃんはお父さんのケータイを探し始めた。その時、ちょうど音が消えた。
お父さんのケータイは今日の朝、放り投げた洗濯物の中に埋まっていた。洗濯物は乾いているやつだよ。

「ちょっと、見てみる?」

お父さんのケータイを持って、お姉ちゃんが言った。
お父さんのケータイには着信アリと表示されている。

「いいや、見ちゃえ!」

お姉ちゃんは僕が何も言ってないのに、勝手にケータイを開け、誰から電話がかかってきたのかを見た。

「あ……」

僕もお姉ちゃんと一緒にケータイを見た。
不在着信で“山村”と表示されている。“山村”は今だけでなく、他の日にもかかってきていた。

「「山村?」」

僕とお姉ちゃんは顔を見合わせた。山村なんて人は知らない。

「何だ、2人が持っていたのか」
「「あ!!」」

突然、ケータイはお姉ちゃんの手の中から現れたお父さんによって奪われた。

「何だ、着信があるじゃないか」

お父さんは普通。僕たちに見られたのに何の反応もなし。

「どうしたんだ、2人とも。あ、さっきの着信かい? これは会社の人だよ」

お父さんはそう言い残し、ケータイを持ってどこかへ行ってしまった。きっと、山村に電話をかけるんだろう。
もしかして、僕たちは間違ったことを考えているのかもしれない。



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