僕と蝉と向日葵と


8月4日。午後。
おばあちゃんは、検査を受けそのまま入院してしまった。
何かの病気らしいんだけど、僕とお姉ちゃんはよくわからなかった。
お父さんとお母さんは病院に残り、僕たちは先に家に帰ってきた。
その時、またあの男の子にあった。

「おばあちゃん、具合どうだって?」

男の子が何でそのことを知っているのかは解らなかった。
でも、この時の僕たちは疑問に思わなかった。

「おばあちゃん、何だかよくわからないけど……、入院して、お母さん、泣いていて………」

お姉ちゃんは、ポツポツと話しだした。話し終えたころには、お姉ちゃん泣いていた。

「そっか、ところでお父さんとお母さんが別れるっていうのは本当?」

男の子は何だかさびしそうな顔をしていた。
名前も解らない、すぐに消えてしまうこの子。僕にはこの男の子が誰だか解ったような気がした。

「ねぇ、お母さんたちが話してくれたお兄ちゃんって君なの? だから、そんなこと聞くんでしょ?」

男の子は何も言わなかった。頷きもしなかった。
僕は何だか泣きそうだった。どうして、お父さんとお母さんは離婚して、僕たち家族が離れ離れにならなきゃいけないの?
僕は一緒にいたいのに。どうして離れなきゃいけないの?
どうして……家族でいられないの……?

「離れ離れなんて、嫌だな……」

お姉ちゃんがそう呟いた。

「お父さんとも、明とも離れたくないよ……。みんな、みんな一緒がいいよぉ……!!!」

僕はお姉ちゃんが泣いたところをあまり見たことがない。
だけど、今のお姉ちゃんは子供みたいに声をあげて泣いている。

「ぼ、僕も嫌だよ、嫌だよぉ……」

お姉ちゃんはわんわんと泣いている。僕も、泣いた。お姉ちゃんと一緒に泣き叫んだ。

「2人とも、泣かないでよぉ……」

男の子が困ったようにそう言ったけど、僕たちは泣きやまなかった。泣きやめなかった。
だって、次から次へと涙がこぼれてくるんだ。

「「うわぁああぁぁあぁあん」」

声が木霊する。その声はいつしか2人から3人に増えた。
だけど、やっぱり帰る頃には男の子は消えていた。



そして、僕たちはとんでもない勘違いをしていた。末石さんは……。
お医者さんだったんだ。お母さんの幼馴染で。
夜中、お父さんが帰ってきてそう言った。お母さんは病院に泊まると言っていた。
その時、お姉ちゃんがついに切り出したんだ。

「お父さん、どうして離婚するの?」

お姉ちゃんは腫れた目をこすった。でも、まっすぐにお父さんを見ていた。
お父さんはためいきをついた。でも、話してくれた。

「お母さんが、こっちでおばあちゃんの面倒を見るっていったんだ。ほら、お父さんは仕事もあるし、朝が早いだろ?」

お父さんはわかってくれというように、僕たちの頭をなでた。
聞きたいことはもっとあったはずなのに。僕たちはそれ以上の事が聞けなかった。

「離婚の理由はそれだけじゃないはずよ」

部屋に帰る時、お姉ちゃんが僕にそう言った。
うん、だってそれが理由なら別居とか方法があるはずなんだ。
お母さんは浮気してなかった。それは解った。お母さんはおばあちゃんが心配なだけなんだ。
なら、どうして離婚?
もしかして、お父さんが……? そういえば、お父さんは誰かと電話していた。

「お姉ちゃん、もしかして浮気はお父さん……?」
「それ、私も考えたわ。だって、2年間も離れていたのよ。考えられるわ」

そう、そして僕とお姉ちゃんは明日決行することにした。



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