ポラリス
キラキラ光る星たちは、
僕の願いを聞いてどこに行くのだろう。
オリオンは何だって知っている。僕たちが知っていること。僕たちが知らないこと。
もちろん、魔法の絨毯や魔法のチケットのことだって。でも、僕たちは何も知らない。
「今日はオリオンに会えなかったね」
僕はベッドに入りながら言った。カーテンの閉まっていない窓からキラキラと光る星が見える。
「オリオンは忙しいからね。昨日の話、もっと聞きたかったなぁ」
部屋の電気を消し、カノープスもベッドに入った。
一瞬だけ、闇が訪れたけど、カノープスはすぐにベッドの脇に置いてあるランプをつけ、闇をほんのりと明るくした。
僕はカノープスと同じ子供部屋で寝ている。多分、僕たちは双子だから同じ部屋何だと思う。
だけど、僕は何で双子だからって同じ部屋なんだって思う。だって、カノープスは凄くナマイキなんだ。弟のくせに。
そうやってカノープスに言うと、僕がカノープスを押しのけて先に生まれたって言うんだ。
どうせ、誰も知らないから適当なことを言っているだけだと思うんだけどね。
でもさ、同じ双子なのに運動が得意っていうのは少し羨ましい。まぁ、僕よりバカだけどね。
「ポラリス、カーテン閉めて。外が煩いよ」
さっきまで、星空が見えていたのにいつから雨が降ってきたのか。ザーっという雨の音が聞こえてきた。
しかも、風も強いらしく、窓がガタガタとゆれた。この強い風がどこからか雨雲を運んできたのかな?
天気予報で雨が降るだなんて聞いてないもんなぁ。
「カーテン閉めたぐらいで音はなくならないと思うんだけど」
僕はベッドからおり、ボソっと呟いた。どうやらカノープスには聞こえていないみたい。
だって、あいつ音がそんなに嫌なのか頭まですっぽりと布団を被っちゃっているもの。
僕の言ったことが聞こえていたら、必ず反論がくるし。それにしても、そんなに煩いかな、この音は。
布団を被っているカノープスが何か少し面白かったから、少し意地悪をしてやろうかと思った。
けど、カーテン開けっ放しだとそのうち寒くなるからな。だから、僕は意地悪するのをやめ、カーテンを掴んだ。
窓を見た瞬間、僕は叫び声をあげた。
「うわぁあぁああ!?」
「な、何? 雷!?」
びっくりした。カノープスもつられてびっくりした。だって、ドンドンと窓を叩いている人がいるんだ! ここは三階なのに!
窓の外の人物はこの雨のなか必死に窓を叩いてくる。僕たちに何か用でもあるのだろうか?
僕はその必死さに負け、少し怖かったけど、もう一度窓に近づいた。
暗くてよくわからないから、その人物をよく見るために目を細めた。
外が一瞬明るくなったときだ(カノープスはうめき声をあげたけど)。僕はその外の人物が誰だかわかった。
「オ、オリオン!?」
僕は急いで窓を開け、闇の中雨でびちょびちょになっているオリオンを部屋へと招きいれた。
そうか、オリオンは黒い髪だから誰だかわかるのに時間がかかったのかもなぁ。
「カノープス! オリオンだよ。オリオンが、はやくタオル持ってきて!」
オリオンから絨毯を受け取りながら、僕はカノープスにそう言った。
そんなとき、パッと部屋の電気がつき、カノープスがバスタオルを抱えて走ってきていた。
どうやら、僕が言う前にバスタオルを取りにいったみたいだ。
ちょうど、オリオンが窓を閉めたときだ。
オリオンの尻尾(オリオンは少し長い髪を下の方で一つに縛っているんだ。それが尻尾みたいだがら、僕はそう呼んでいる)
から水滴が落ちた。
「お、悪いな。ありがとなー」
オリオンはカノープスからバスタオルを受け取り、髪を縛っている黄色のゴムをほどき、髪の毛をわしゃわしゃと拭いていた。
その間に僕は暖炉の形をしている電気ストーブをつけ、その前に絨毯を敷いた。乾かすために。
「相変わらずこの家は広いな。っと、今日はそんなことじゃなくて。見せたい物があるんだ。
まさか、雨なんか降るとは思っていなかったから濡れてないといいけど……」
オリオンがタオルを頭に被ったまま、僕の机のイスに座り、ポケットから何かキラキラした紙をひっぱりだした。
何か、ちょっとくしゃくしゃになってるいけど、一体何なんだろう?
「良かった。濡れてないな」
「ねぇ、何なのそれ。何かのチケットのようにも見えるけど」
何だか映画の前売り券みたいだ。形がそっくりだもの。僕はそのチケットをマジマジと見た。
「これは、魔法のチケットだ」
オリオンが、自慢げに言った。カノープスもまじまじとチケットを見ている。
「魔法のチケット?」
「そう。その通りだよ、ポラリス。魔法のチケットだ。これさえ映画に本に、作られ
た物語の中に入れるんだ。その物語を肌で感じることができる。まぁ、その中の登場
人物には見つかってはいけないっていう制約があるんだけどさ」
僕とカノープスは顔を見合わせた。オリオンはいつもこうやって不思議な物を持ってくる。
多分、僕とカノープスは考えていることは同じだろう。
「それ、どこで手に入れたの? 僕、そんなチケット見たことも聞いたこともないよ」
僕が、オリオンにそう言うとオリオンは笑った。
「秘密。ちょっと拝借したのさ」
僕とカノープスは同時にため息をついた。またかって感じで。
そのため息で、オリオンは僕たちの言わんとしていることがわかったようで、慌てて付け足した。
「黙って借りただけだよ。とにかく、明日ポムじいさんの映画館に行って試してみようぜ。あそこなら客もいないし、安いしな」
オリオンは立ち上がり、暖炉の前に敷いてある絨毯を触った。どうやら大体乾いたみたいだ。
だって、オリオンがいつものように絨毯をくるくるっと丸め、脇に抱えたから。
外も、もう雨の音が聞こえなくなっている。オリオンは頭に被っていたタオルをカノープスに渡し、髪を縛り直した。
「じゃあ、また明日ポムじいさんの所でな! 俺、朝一で待ってるからなー」
オリオンはそう言い、入ってきた窓から外に出て、絨毯に乗って夜の闇に消えて行った。
僕たちは窓から身を乗り出し、そんなオリオンを見送った。
オリオンは背が高く、歳よりも僕たちより上だから、いつも僕たちのことを子供も扱いする。
それに、オリオンはいつも僕たちの金髪と青い目を天使みたいだって言ってるけど、オリオンの灰色の目はとても不思議な感じがする。
髪だって、何で長くしているのか不思議だし。でも、オリオンはいつも教えてくれない。僕は知りたいことがたくさんあるのに。
「オリオン、行っちゃったね」
オリオンが見えなくなり、カノープスが窓を閉め、カーテンも閉めた。
「うん。明日が楽しみだね」
再び部屋の電気を消し、僕たちは眠りに就いた。
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