ポラリス


次の朝、朝食を食べてすぐに僕たちはポムじいさんの映画館へ向かった。 こんなこと、両親が仕事に行っていなきゃ出来ないことだ。朝から遊びに行ったら怒られるも の。
両親のことは許せないけど、こうゆうときは凄く良いと思う。

「あ! オリオン、おはよー」

ポムじいさんの映画館に行くと、入口の前でオリオンが寒そうに絨毯を抱えて立っていた。

「おー! 来たか。何か大分寒くなったよなぁ」

オリオンはそう僕たちに手を振り、僕たちはオリオンに駆け寄った。

「早く中に入ろうよ! 今日は何の映画がやっているのかな?」

カノープスが早くといった感じで、オリオンの腕を引っ張った。

「まぁ、待て。そんなに急ぐことはない。今日は確かファンタジー映画じゃなかったか? この前まで人気だったやつ。 そこまで危ないわけじゃないし、ちょうどいいだろう」

オリオンはそう言いながら、入口の横に置いてある自販機で三枚のチケットを買った。
多分、今から見る映画は、僕とカノープスは一度見たことがある気がする。

「ポムじーさん! 映画見に来たから、映写機動かしてくれよー」

映画館の中に入ると、髭面でずんぐりした不機嫌なおじいさんがいる。もちろんここにお客さんは誰一人いない。
きっと、隣町に大きな映画館が出来たから、お客さんを取られちゃったんだと思う。
その映画館は広いし、最新映画がやってるけど、ここは違うしね。僕もその映画館が出来てからそっちに行くようになった。

「ふん、こんな朝っぱらから来よって。そんな所に突っ立ってないで、さっさと客席へ行け!」

ポムじいさんはそうブツブツと文句を言った後、そう僕たちに命令した。

「僕、ここに客が来ないのは隣町の映画館だけのせいじゃないと思う」

客席に向かいながら、カノープスがそうブツブツと言った。僕もそう思うよ。
だって、ポムじいさんの性格は最悪で有名だもの。まるで、クリスマスキャロルのスクルージのみたい。あの人はいい人になったけど。

客席に行くと、もう映画は始まっていた。僕たちは急いでスクリーンの前に行った。
にしても、まだ僕たちが客席に行ってないのに映画を始めるなんて。やっぱり、あの人は意地悪だ。
これだから、大人は嫌いなんだ。オリオンはポケットからあのチケットを出した。

「映画の中に入るのには、このチケットに指一本でも触れていないといけないんだ。 後、チケットを失くしたり、映画の中の人物に見つかると映画の中から出られなくなるから気をつけろよ」

僕たちはオリオンの言う通り、片手でチケットを掴んだ。何だか凄くドキドキしてきたぞ。もうすぐ映画の中に入るんだ!

「な、何か凄くチケットが光り出したよ!」

カノープスがそう言うやいなや、チケットが金色の光りを発し、僕は思わず開いている方の手で光りを遮った。
あんまり意味はなかったけど。そして、次に起こった感覚。それは、スクリーンの方に引っ張られる感覚。何だか物凄く気持ち悪い。

「うわぁあぁああぁあああ!!」

急にぐいっと引っ張られ、僕はチケットを掴んだまま気を失った。気を失う瞬間、僕は離れて行く客席を見たような気がした。


「ポラリス、大丈夫か?」

目が覚めると、カノープスとオリオンの顔があった。頭が少しズキズキする。

「映画の中に入れたの?」

僕は起き上がり、目を擦って周りを見た。僕たちは外にいるみたい。

「成功だよ。ここは映画の中だ」

オリオンが楽しそうに言った。この町並み、建物に囲まれた感じの場所。朝だったのに周りはすっかり暗い。
そうか! 主人公の男の子が夜中にバスに乗って逃げる所だ! 僕たちは何か大きな道の真ん中に立っているけど、 ここって車道じゃないのかな。真ん中に白い線もあるし。

「見て! あそこに主人公がいる!」

カノープスが建物と建物の間の細い道を指差した。本当だ。確かに、細い道から主人公の男の子が息を切らして走ってきた。
映画のシーンと同じように右腕を上げた。その瞬間、僕たちは明るいライトに照らされていた。

「眩しい!」

カノープスが手でその明かりを遮った。その明かりは凄いスピードで僕たちに近づいてきている。

「ヤバイ! あの主人公、今バスを呼んだんだ! このままじゃ、俺たちは轢かれちまう!」
「えぇぇええ!?」

バスを呼んだのはわかってた。でも、僕たちはオリオンのバスに轢かれるっていうのに驚き、目ん玉が飛び出るほど驚いた。
そうか! 僕たちは登場人物に見つかっちゃいけないんだ。バスは僕たちに気付いていない。
逃げなきゃ轢かれるしかないんだ! オリオンはチケットをバスにかざした。僕たちの腕を引っ張り、チケットに掴ませた。
その途端にチケットはさっきと同じように光り出し、その光りの中にぽっかりと黒い穴が開いた。
その黒い穴からは向こう側、客席が見え、僕たちはその穴に飛び込んだ。何だかまた気持ち悪くなり、僕は目を瞑った。



    BACK|モドル|>>NEXT