オリオン


またあの夢だ。いつもの夢。海の中から空を見ている夢。
一体何でこんな夢を見るのか。なんとなく、理由はわかっている。それは……。


「寒い〜! 外に何か出たくないよー!」

リゲルがそうドアの前でだだをこねた。もう、ここはすっかり冬になってしまった。
ベテルギウスが町のテレビ屋で天気予報を見たところ、今年の冬は去年に増して寒くなると言っていたらしい。
その話を聞いた途端、ベテルギウスが悪いわけではないのに、ベラトリックスが文句を言った。ただでさえ、ここの冬は寒いのにと。

「なー、ベラトリックス。やっぱりやめようぜ? 外は寒いしさー」

俺はすっかり冷え切った手に息を吹きかけた。それだけじゃない、あまりの寒さに貧乏揺すりでもしているかのように震えている。
ベテルギウスも、リゲルも。

「何言ってるの! ヒーター、せめてホッカイロだけでも買わないと。私たち凍え死んじゃうわ!」

ベラトリックスはそう言いながら嫌がるリゲルにマフラーをまいた。

「そうだ! ポラリスたちの家にあったまりに行こうよ! それならあったかいよ!」
「だめよ、リゲル。二人に迷惑かけるでしょ。二人のご両親にも」
「えー……」

リゲルが気の抜けた声を出した。確かにポラリスたちの所には暖かい物がある。
だけどさ、せっかくの家族団欒の時間を邪魔したくない。仲直りしたんだし。

「ベラトリックス、行くなら早く行った方が。こんな天気じゃ雪がいつ降ってもおかしくないよ」

ベテルギウスは小刻みに震えながら窓から外を見た。雲は今にも雪が降ってきそうで、まるで雲じたいが雪のような。

「そうだ! 何か、そういう魔法はないの? 暖かくなる魔法みたいな」

ベラトリックスははっとして、期待すような眼差しでベテルギウスとリゲルを見た。最後に俺も見た。

「いや、何か間違って家とか燃やしちゃったら嫌だし」
「僕も。オリオンは?」

二人は示し合わせたように俺を見た。

「え、俺?」

「うん。それに俺たち、夜はすばるに行くし。オリオンなら出来るだろ?」
「そうそう。すばる行くし」

二人はまるで早くすばるに行きたいと言っているようにも感じた。

「出来なくはないけど……」

そう言い、呪文を唱え、手から光を出した。その瞬間、世界が変わった。
俺はまたあの海の中にいた。何か大切なものが離れていくのを感じた。全てがわからなくなった。自分のことすらも。



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