冬 行 路


俺はただただ、歩いていた。雪の女王のところへ。
人間たちは今日ここを雪うさぎが通ることを知っている。人間だってバカじゃない。そういった情報をどこからか仕入れているんだ。
だから、きっとこのへんで待ち伏せとかでもしているんだろう。
俺はまわりを警戒しながら歩いた。小春の泣き顔が、小春の涙が頭から離れない。でも、これでいいんだ……。

「いたぞ!! 雪うさぎだ!!」

突然俺の前に一人の松明を持った男が現れた。やっぱり。待ち伏せしていたんだ。
まさか松明を持ってくるとは思わなかった。さすがの俺でもヤバイ。
俺は男の脇をするりと抜け、走りだした。男は突然自分に向かってきた俺に対して驚き、一瞬反応が遅れた。

「待てっ!!」

だが、男は俺の後を追ってきた。いつのまにか、人間が増えていて俺は少し驚いた。
ま、人数が多くても雪の上の追いかけっこなら負けないさ。いざとなったら転がってにげるさ(そんなこと本気でやろうとは思わないけど)。
ところで、雪うさぎはもう雪の女王のもとへ向かっているのだろうか? 
と、いっても完全に雪の女王の城までの道を知っているのは雪うさぎたちだけだ。俺たちや人間は途中までしかしらない。
その先は道が複雑になっていて行けなくなっているんだ。だから俺たち、雪だるまも人間も雪の女王の姿を見たことがない。
そう。その複雑な道になるまではどんなルートでも誰だっていけるんだ。その先は迷路になっていると聞いた。
そして、道案内がいないと通りぬけることはできないと。もちろん、その道案内は雪うさぎしかいないんだが。

「待てって言っているだろうが!!」

さっきと違う男がそう怒鳴り、俺に松明を投げてきた。
その松明は俺の足元に落ち、俺に当たることはなかったが俺たちは熱に弱い。炎の熱気と煙で俺の脚は火傷を負った。
しかも、その松明は雪の上に落ちたっていうのにまだ轟々と燃えていた。でも、そんなの関係ない。どうせ、俺は死ぬんだし……。
あ、まただ。死ぬと思うたびに小春への罪悪感はいっぱいになる。
きっと、あいつの持っている雪のカケラは今頃黒く光っているんだろう。
人間たちはなぜ、雪うさぎを殺す? それは、雪うさぎが異端な存在だからか? 
それとも、雪うさぎたちが女王に伝えるメッセージを恐れているからか? それとも、雪の女王に愛されている雪うさぎたちを憎んでいるからか? 
雪うさぎの前にしか姿を見せない雪の女王を憎んでいるから雪うさぎを殺して復讐するのか? 
それとも、この世界は雪うさぎだけに住みやすいように作られ、雪の女王が春を奪い、自分たちでそれを奪いかいそうと思っているのか?
 雪だるまは混血のやつもいる。そのためある程度は共存できるんだ。だが、雪うさぎは無理だ。
雪うさぎは雪や氷に雪の女王が命を吹き込んだものだから。そして、他種と同じような人の形にした。
そう、共存できない。性別すらなく、火にはひたすら弱い。だが、雪の女王はそんな雪うさぎを愛して、自らの話し相手に選んだ。
何だかどこかで聞いた話だな。神が作った人に嫉妬し、その人をだます話によく似ている。
もしかしたら、人間たちが雪うさぎを殺すのはそのためなのかもしれない。いや、それだけじゃない。
もしかしたら、五年前、人間たちは雪うさぎに城への道を聞いたのかもしれない。
だけど、雪うさぎは教えず逆上した人間に殺されたのかもしれない。そして、それを繰り返すうちに人間は考えたのかもしれない。
五年前のようなことが起きれば雪の女王は城から外に出てくるのかもしれないと。
もちろん、それが楽しくて快楽でやっているやつもいるだろう。そして、雪の女王の怒りの日には自分は生き残ると思っているんだ。
こんなことを推測しても、人間の考えることはやっぱりよくわからない。

「あいつ……脚が溶けないぞ!!?」

追ってきている奴の一人がそう言った。そう。雪うさぎは人の形をしていても、雪や氷だから溶けてしまうけど、雪だるまは違う。
火傷をおうだけだ。雪の女王は、聞いたところによるとすぐに治るらしい。
だが、俺の脚は限界だった。皮膚がただれ、とにかくもうだめだった。すぐに手当をしなかったからだ。

「もしかして雪だるまじゃないか!?」

やっと気づいたか。そう、俺は雪だるま。でも、今頃気づいても遅い。雪うさぎたちにはもう追いつけない。
ついに言えなかったな。小春にたった一言。ずっと、一緒にいたかったなぁ……。
俺は脚の火傷が重傷で、この白銀の雪の上に倒れた。



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