冬 行 路


「え? それ、どうゆう事?」

雪名が帰ってきた。

「それって、雪うさぎの代わりに雪名が死んじゃうってことだよね?」

私は今回の仕事内容を雪名に聞いた。とても、耐えられない内容だった。

「わ、私……そ、そんなの嫌だよ。そ、そんなの……」
「嫌でもやらなきゃ、いけないんだよ」

雪名は赤いカラーコンタクトを入れながら、そっけなく言った。
雪名は泣きそうな私の頭をいつものように撫でてはくれなかった。雪名は続けた。

「俺の仕事が終わったらすぐに新しいパートナーが来る。今度からはそいつと仕事をしろ」

そんな……。雪名は私に背をむけているから、雪名がどんな顔をしているかは解らなかったけど、そう答えた声はとても無機質だった。
私は、悲しくなった。雪名以外のパートナーなんていらない。だって……。

「新しいパートナーなんていらない!! 雪名がいい! 雪名と一緒にいたい!!」

私はいつのまにか泣いていた。いつもなら、「小春は泣き虫だな」って雪名が笑って涙をぬぐってくれた。
でも、雪名がそれをすることはなかった。

「まだ、間に合うよ!! 冬生さんの所に行って、断ろう。今回の仕事はできないって。私も一緒に行くから……」

解っている。そんなこと出来ないって。これが私の我ままだってことも。
でも、雪名には死んでほしくない。皆だってそうでしょ? 大切な人には死んでほしくないでしょ? 私は雪名と一緒にいたいんだ。
今も、これからもずっと……。でも、雪名がここでいかないと雪うさぎたちは殺され五年前の悲劇が繰り返される。
でも、雪名が死んじゃうのはもっと嫌だ。それに、行くのは雪名じゃなくたって、いいって私は思ってしまう。
こんなことを思う私は、黒い心をもつ人間たちと一緒だ。

「我儘言ってんじゃねぇよ。それに冬生から出された指令は絶対だ。断ることなんて出来ねぇよ」

雪名は私の方を見ない。それが、また私を悲しくさせる。そして、解っているからこそ余計苦しくなるんだ。

「わかってる、わかっているけど……っ!!」

涙がとまらない。どうしてこんなことになってしまったの? 
今は二月。皆、今年こそはと春の訪れを待っている。三月になれば、雪うさぎたちは春眠する。
そうすれば、人間たちも火をあまりたかなくなり、雪の女王にも雪うさぎにもかまわなくなる。
そうすると、雪だるまは危険な仕事をしなくてすむんだ。
そもそも雪うさぎがもっと考えて行動しないからいけないんだ! 雪うさぎは非力で、警戒心もない。
いや、もしかしたら心がないのかもしれない。氷のような心なのかも。でも、これはあくまでも推測だ。
私には、なぜ人間たちが雪うさぎを殺すのかが解らない。雪の女王の居場所が知りたいなら、殺さずに聞けばいいじゃないか。
解っているよ。雪うさぎは、黒い心の人間に会うと、身の危険を感じて、不思議な力を使ってしまうことも。

「雪名っ……。雪名、私っ……!!」

私は雪名を見上げた。私の方を向いてほしかった。

「私、雪名がいなくなったらどうすればいいのか解らないよっ……」

涙がどんどんあふれてくる。どうして、何でこんなことになっているの? どうして、私は雪名を失わなければいけないの?

「お前はもう、一人でも大丈夫だ。いつまでも俺に頼るんじゃない」

雪名はそう言い、一度も私の方を見ずに外にでた。
私は怖かった。これ以上引きとめてしまったら、もしかしたら雪名に嫌われるのではないかと。
でも、雪名が死んでしまうのはもっと嫌だった。

「じゃあな、小春」

雪名は白銀の世界に溶け込むように消えていった。
私は怖いのと悲しいのとで、足が動かなかった。まだ、何も伝えてないのに。何も言ってないのに……。

「雪名っ……!!」

私はその場でしゃがみこみ、泣くことしかできなかった。雪名を追いかけることすら出来なかった。



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