ペテルギウス


五年前だ。両親と兄さんが死んだ。
死因は事故死。家族四人で旅行から帰って来る途中に、大型トラックと衝突した。
家の近くの見通しの悪い交差点。よく、事故が起こっていた場所だ。 俺は、母さんと後部座席にいたから、よくわからなかったけど、脇道からトラックが右折してきて、ぶつかった。 多分、お互い見えなかったし、気づかなかったんだろう。だから、ブレーキも踏まずにぶつかった。 トラックも車も、無残な姿になったよ。
父さんと兄さん、トラックの運転手は即死だったらしい。母さんは病院に運ばれる最中に死んだ。 俺は、ぶつかる瞬間、母さんが盾になってくれたから死なずにすんだ。そう、俺だけが生き残ってしまったんだ。


「なー、ペテルギウス。オリオンはどうしてるんだよ?」
「俺もオリオンに逢いたいんだけどー?」

俺は今、すばるに居てある奴らに付きまとわれている。同期のプロキオンとシリウス。
すばるでは、同じ年に導かれた人のことを同期を言うんだ。 オリオンとアルカイドは俺たちより、一年か二年前にはすばるに導かれていた。リゲルは俺たちの後だ。

「なー、ペテルギウス。何か言えよう」

歩きながら無視していると、シリウスがブーブーと文句を言い始めた。本当に煩くて、鬱陶しい。
歳だって、俺とそんなに変わらないはずなのに、どうしてこう子供っぽいんだ? 本当、いい加減にして欲しい。
オリオンが好きなのはわかったから。

「お前たち、うるさい。鬱陶しい。お前たちは導かれたときと何も変わってないじゃないか。 そんなんだからいつまでも、すばるを抜け出せないんだ」

俺は後ろからついてくる二人を見て、そう言った。
二人がどんな理由で、すばるに導かれたのかは知らないが、俺だって人のことは言えない。 だって、まだここを抜け出せてないじゃないか。

「何だよそれー! お前だって一緒じゃんか!」

シリウスがしゅんとし、プロキオンが文句を言う。あー、本当に煩い。耳元でキャンキャンやめろ。
ここに導かれた奴は、心に癒えない傷を持っている。全てに絶望し、現実から逃げ出した。
ここにいるってことは、まだその傷は癒えていないし、傷を乗り越える強さもない。
オリオンやアルカイドは自分を受け入れ、現実を向き合い、未来へと、先へと進んだのに。
俺たちはまだ自分を、現実を受け入れられない。先に進むことが出来ない。自分や、世界を許せないでいる。 だから、俺たちはまだここに、留まっている。

何で俺だけ生き残ってしまったんだろう。俺は誰にこの気持ちをぶつければいいんだろう。
恨むべき相手は死んでしまっていない。俺は、ずっとそう思っていたよ。



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