ペテルギウス
事故にあってから、俺は親戚のおばさんの家で暮らすようになった。
おばさんの口から、父さんたちが死んだってことを聞かされても、不思議と涙が出なかった。
事故の記憶はちゃんとあるし、父さんたちが死んだのもわかっていた。
涙が出でなかったのは、きっとからっぽになっていたからだと思うんだ。
俺は死んではいないけど、あの事故で何か大切な物を失ってしまった気がした。
だからかな。おばさんの家で暮らし始めて、最初の夜にすばるに導かれた。
すばるを見ても驚かなかったよ、何せからっぽだったからね。
それで、事務的にすばるに入り、魔力を借りた。別にリゲルのように、すばるが救いだなんてことはなかったよ。
何も感じてなかったし、感じられなかったからね。
「オリオン、面白い話してー」
「俺もオリオンの話聞きたいー」
シリウスとプロキオンも俺と同じ時期に導かれていて、俺より先にオリオンと仲良くなった。
この時から騒がしい二人だなぁって思ってたけど、それは今でも変わってないな。相変わらずあの二人は騒がしい。
「そうだなぁ。じゃあ、鍵の話をしてやるよ」
オリオンに至っては、いつも周囲に誰かいた。人気者で、皆の中心でいつも笑っていた。
俺はそれを遠巻きに見ていた。遠巻きに見て、何故かイライラしていた。
いつも笑っているあいつを見るたび、イライラしていたんだ。
過去とは変えられない。一年前も、一秒前もそれは同じ。
だけど、過去は誰にでもあって、優しくて残酷な物である。
俺とあいつが始めて話したのは、俺がすばるに導かれてだいぶたった頃だ。
あいついは、いつも持ち歩いている絨毯を、木の枝に引っ掛けてしまい、困っていた。
今思うと、魔法で取れたんじゃないかと思うが、俺は引っかかっている場所に手が届いたから、条件反射だろうな。
ひょいっと取ってやったんだ。俺は何も言わずに絨毯をオリオンに渡した。
「ありがとう! 俺、届かなくて困ってたんだ! えっと、君は確か……ペテルギウスだよね?」
あいつは、ニカっと笑った。俺は少しだけ驚いたね。だって、話したこともないのに、あいつは俺のことを知っていたんだ。
お互い名乗っても居ないし、俺はそんなに目立つほうではないはずだ。
これは後で聞いた話だけど、結構目立っていたらしい。デカイから。
「お前はオリオンだろ?」
俺がそう返すと、あいつは嬉しそうに頷いた。まぁ、すばるに居てあいつのことを知らない奴はいないよな。
それほど人気者だったし、絨毯を持っていたから目立っていたし。
この頃のあいつは、まだ髪が短くてさ。髪も結んでいなかった。
今思うと、髪の短いオリオンなんて新鮮だが、笑い方は今と何も変わっていない。
「俺のこと知ってるんだ! ありがとう!」
あいつは飛びっきりの笑顔でそう言った。
おかしいな、こいつの笑顔を見るたびに俺はイライラしていたのに、不思議とイライラは収まって俺は笑うことを選択していた。
オリオンと一緒になって笑っていた。
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