ペテルギウス


この時の俺は何もわかっていなかった。何故オリオンが笑う選択をしたのか。
あいつは忘れちまったけど、あいつにも残酷な過去があるってことを。

「ペテルギウスくん、ちょっといいかい?」

俺はある人の声で戻ってきた。俺は声をかけられ、声の主を見た。この人、儀式に居た……確か、タビトさんっていう人だ。

「何ですか?」

俺はそう返した。タビトさん、少しだけあいつに似ている気がする。これは、気のせいじゃないと思う。
そう、あいつと同じ目がそっくりなんだ。

「オリオンのことで、話があるんだ」

おじさんはそう一言だけ言った。
あぁ、もしかしてあいつの過去のことなのかなって俺は思ったよ。それ以外、あいつの話なんかない。


過去は誰にでもあって、優しくて残酷な物だ。
時には悲しい時もある。俺は、まだ理解していなかったんだ。


俺とおじさんは、二人で話せる場所に移動した。
あそこで話していたらいつ、プロキオンたちに邪魔されるかわからないからな。
一体どんな話が飛び出してくるのだろうか、俺は少し緊張していた。

「君は太陽を知っているよね?」
「え? どんなものかくらいは知っていますけど……」

びっくりした。まさか、いきなり太陽の話が出てくるなんて。
すばるの奴なら皆知っているはずなのに、どうしてこんなことを聞くんだろう?

「なら、君は太陽を変える方法を知っているかい?」

おじさんは朗らかに言ったけど、目が真剣だった。
太陽を変える方法なんて、俺は聞いた事もない。だって、そんなことは不可能だ。
太陽は、自然界に愛された存在。最も特別で、最も幸運で、そんなの生まれつきじゃないか。
大体俺たちは自然界に愛されるとか、自然界がどうやって太陽を決めているかもよく、知らないんだ。 知っているのは、太陽は魔力が強く、自然界に愛された特別で幸運。彼らと話が出来るってことぐらいだ。

「知りません。そんなこと出来るんですか?」

誰もが思っている常識。知らないし、出来ない。でも、きっとその方法があるから、おじさんはああ言って来たんだ。
多分、俺は今からそれを知る。そう思うと何だか少し怖くなってきた。
おじさんは、小さく深呼吸をした。

「出来る。ごく僅かの人しかしらないが、方法はある。 それはとても、残酷で耐えられないようなこと。太陽を変える方法は、 この世で一番やってはならないこと。殺人……つまり、太陽を殺すことだ」
「え!?」

おじさんは低い声でそう言った。俺は思わず声をあげたよ。
だって、殺すだって!? 世の中にはたくさん悲しいこともあるし、苦しいことも物騒なこともある。
人の命を奪うなんて、最もいけないこと。最も残語で、許されないことだ。おじさんは、さらに続けた。

「太陽を愛してしまった自然たちは太陽なしでは生きていけない。全ての木々が枯れ、自然が消える。 そのため、太陽が死ぬと一番近くに居た人を太陽とする。交換太陽は、別に〇等星でなくてもいいんだ。 太陽の一番近くに居た人。それだけで、太陽になれる」
「……もしかして、おじさんはオリオンが太陽だって言いたいんですか?」

太陽を変えることが出来るなんて、それだけでも衝撃だ。その方法だって、衝撃。
でも、何でおじさんはこんな話を俺にしたんだろう? そんなの少し考えれば簡単さ。
だって、おじさんは、俺にオリオンの話をすると言ってきた。ってことは、太陽の話はオリオンに関係があるってことだ。
そうなると、オリオンが太陽か、交換太陽。それか、オリオンが太陽を狙っているかの三つに絞られる。
まずオリオンが太陽を狙っているっていうのはありえない。あいつはそんなことをする奴じゃない。
ってなると、残るのはオリオンが太陽か、交換太陽かが。しかも、オリオンは〇等星だ。ってことを俺は知っている。
太陽は〇等星。オリオンも〇等星。交換太陽は〇等星じゃなくてもいい。
ほら、簡単だ。オリオンは交換太陽より、太陽の可能性の方が強いんだ。

「察しがいいね。その通りだ」

おじさんは、コクンと頷きそう言った。ほら、俺の思った通りだ。
オリオンが太陽で、多分だけど……太陽に成り代わろうとしている奴がいるんだ。



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