ペテルギウス


前から言われていることがある。
それは、太陽は自然界に愛されて幸せだということだ。
太陽は自然界の力で色々なものから守られる。
事故とかも回避できるらしい。何より、彼らと話が出来る。

「太陽は世界一幸せだ。そんなこと、太陽本人にしかわからないのに、大抵の人はそう思っている。 太陽になれば幸せになれると。特にすばるで儀式を受けた者たちはそうだ。 彼女たちは、すばるこそ、魔法こそ幸せで、正義だと信じている。魔法に救われたからね」

おじさんの話を聞き、俺はあの時の儀式を思い出していた。
おじさんに出会い、オリオンに止められた儀式。
あの時の俺も、魔力があれば、魔法があれば何でも出来る、幸せだって思っていた。
でも、違うんだ。俺は〇等星じゃないから、いつか魔法を手放さなければならない。
魔法を使うことを許されているのは〇等星だけ。
俺たちは許されていない。だから、借りているだけ。
いつかは、現実と向き合い、魔法なしで幸せを掴まなければならない。

「儀式の本当の意味は、カウンセリングのようなものだった。 今では、儀式を受ける子たちの心の弱さが影響してね。 昔は、この世界にも魔力が満ちていた。 今と違って、たくさんの〇等星がいた。だが、子供たちはいつでも同じ。傷ついていた。 すばるは、そんな子供たちのために作られた学校だ。 魔法を知らない人に知られないように、空に浮かせ、 同時に子供たちの心も刺激する。空に城が浮いていれば大抵の子たちはワクワクしたりするからね。 傷ついた子供たちに、世界を恨んだ子供たちの傷が癒えるように、少しの間だけ夢をみさせようと思い、 私たちは魔力を貸すことにした。いつか、現実を受け入れ、すばるを抜ける日が来るのを信じて」

おじさんは目を瞑った。

そう、いつかは殆どの子たちが魔力を返さなければならない。
アルカイドは返したはず。返して、魔法なしで幸せを掴もうとしているはず。
でも、裏をかえせば、すばるから抜け出せなければ、大人になっても魔力を持っているってこと。
子供のときは純粋に、魔法が使えて嬉しいし、楽しい。少し自分に自信もつく。自分は何だってできるんだって。 それで、段々と強くなり、すばるはいい思い出となって、魔力を返す。


だけど、大人になっても魔力を持っていたらどうだろうか? 子供の世界より、大人の世界の方が残酷で、悲しい世界だ。
優しさなんてない。子供はダダをこねて泣き喚けばいいが、大人にはそれも出来ない。
傷はきっと、どんどん広がっていき、魔法を悪いことに使うかもしれない。 大人になって魔法を許されているのは、〇等星と、次の子供たちのために、すばるに残ると決心した大人たちだ。
ペガサス座の人たちがそうだ。魔法を悪いことに使わないか見ている。きっと、おじさんもそういう人なんだろう。
大人たちは利己的で自分勝手だから、子供たちのためにと思った人しか魔法は許されていないはず。
他の奴が魔力を持っていたら、もっと魔力が欲しいがために子供たちから魔力を奪ったり、 楽してお金を稼ぐために魔法を使って何かするかもしれない。


魔法が公にならない理由も知っている。
大体普通の人は魔法なんて信じていない。俺だって信じていなかった。
欲のある人たちは魔力が篭ったものに魅せられることはあるけど。
魔法が公にならない理由は、やっぱり悪いことに使われないようにするためだ。
それに、もしすばるの存在が知られてしまったら、大人たちはすばるを探す。
そんなことをしたら、すばるに居る傷を負った子供たちの傷はどんどん深まってしまう。



BACK |モドル| >>NEXT