クリスマスの奇跡


しばらく僕たちはソリに乗っていたが、光の道がなくなると、ソリは自然に地面に滑るようにして下りた。
そこには大きな家と、大きな庭があった。
その庭には8頭の鈴をつけたトナカイたちがいた。

「だから! そうだって言ってるだろ!? これはサンタのトナカイなの!! こいつらがいないとプレゼントが配達できないの!!」

ミチルが少し怒鳴りぎみで家の主のおじさんと言い合いをしていた。
ミチルって以外と短気なんだなぁ。

「ジェイク、ごめんよ。ジェイクの願いを叶えてあげられなくて」

サンタがいつのまにか僕の横にいた。

「ジェイクの手紙が来た時、俺のじいちゃんがサンタだったんだ」

サンタはうつむいていた。

「パパのいる場所は知ってるの?」

僕がそう言うと、サンタは頷いた。

「えっと…ジェイクの父さんは元気だよ。もう再婚して子供もいる。俺のじいちゃんがそう言ってた。願い叶えてあげられなくて…ごめんね」

サンタは哀しそうに言った。
そうか。
やっぱりそうだったんだ。
パパは僕を孤児院に預けたんじゃなくて置いていったんだ。
それぐらい僕だって何となくわかってた。
だから、僕は理由もなくただサンタクロースに八つ当たりしてたんだ。

「サンタが謝らなくていいよ。それに…僕もサンタに謝らなきゃいけない事があるんだ」
「俺に謝る?」

サンタはわけがわからないという顔で僕を見た。

「うん。サンタクロースの事、信じてあげられなくてごめん。あと…サンタっておじいちゃんじゃなかったんだね」

サンタはそれを聞いてにっこりした。

「いいよ、そんなの。よくある事だもん。…うーん。本当はさ、俺の父さんが次のサンタだったんだけど…俺が小さい時に死んじゃって…。それでじいちゃんも一昨年に死んじゃって。それで俺がサンタを継いだの。その時に名前もサンタクロースに変わるんだ」

と、サンタは言うとミチルと家の主のおじさんのところに行った。
サンタはおじさんを見た。

「おじさん、俺のトナカイたちをかえしてくれない? じゃないと、皆にクリスマスの奇跡を見せてあげられないよ?」

サンタは指をパチンとならした。
その時、空からキラキラと光る真っ白な雪が降ってきた。

「雪!!? 今日は雪は降らないはずじゃ…」

おじさんは、その雪をつかんだ。
雪はおじさんの手の中で、キラキラ光る光の粉になった。
おじさんはサンタの顔を見た。

「君、まさか…本当に…」

サンタはにっこり笑った。
おじさんは庭に行き、8頭のトナカイたちを連れてきた。

「このトナカイたちは君にかえすよ。家の前をうろうろしていたから捕まえたんだが…。まさかサンタのトナカイだとは。そのかわり、世界中の子供たちに夢を、奇跡を配達してくれよ」

おじさんはにっこり笑った。
トナカイたちはサンタの方に喜んで駆けていった。

「ありがとう、おじさん。………ダッシャーにダンサー。それにプランサーにヴィクセンにコメット。キューピッドもブリッツェンもドンターも、皆迷惑かけたね」

サンタはトナカイたちの頭を順々になでていった。トナカイたちは凄く喜んでいた。
ミチルがトナカイたちを連れて行き、ソリにつけた。
また鈴の音が聞こえた。
サンタはソリに乗った。もちろん僕とミチルも。

「おじさん、プレゼントだよ」

サンタは自分のポケットから何かをだし、おじさんに投げた。
おじさんは、それを見事キャッチした。

「奇跡のおすそ分けだよ」

サンタはにっこり笑った。
サンタが投げたものはスノーボールだった。

「ありがとう!」

おじさんも笑った。
トナカイたちは力強く、空に駆け出した。
ソリは真っ直ぐに孤児院にむかった。
雪がとても綺麗だった。


トナカイたちは僕の部屋の前の窓で止まった。
僕は窓から部屋に入り、サンタの服をクローゼットから出した。

「ミチル、プレゼントは?」

サンタはミチルの事を見た。
ミチルは……ガーンというショックを受けた顔をした。

「…プレゼント、北極点に忘れてきちゃった!!!」

サンタもそれを聞いて、ガーンという顔をした。

「え、じゃあ…時差の事や、北極点に戻る事を考えると…もう出発しなきゃ!!」

サンタが僕の部屋にかかっている時計を見た。

「サンタ、服持ってきた!!」

僕はいそいでサンタにサンタの服を渡した。
が、サンタは指をパチンとならした。
一瞬のうちに僕が貸していた服からサンタクロースの服に戻った。

「ジェイク、最近おもちゃを作る人の人数が足りないんだ。それに3人で配達したほうが時間に余裕が出来る。だから…手伝ってくれないかい?」

サンタは柔らかい笑顔で僕に言った。
僕は暫く呆然としていたが…。

「手伝う!! 僕も手伝いたい!! 一緒に奇跡を起こしたい!!」

僕はサンタとミチルが待っているソリに飛び乗った。
トナカイたちは力強く空を駆け出した。

「そうだ! これ、ジェイクにあげるよ」

ソリを運転してる時、サンタがポケットからあの鈴を取り出した。
僕には音が聞こえなかった鈴だ。

「これを持っていれば、ジェイクも奇跡を起こせるよ!」

そう言うと、サンタはその鈴を僕に差し出した。
僕はその鈴を受け取った。
そして鈴を振ってみた。
音が、音が聞こえた。
綺麗な鈴の音が…。

「これ、本当にもらっていいの?」

僕がそういうとサンタは笑った。

「うん! だって俺はもう、奇跡を起こせるもん!」

僕がサンタにお礼を言うと、サンタは照れ笑いをした。
今までの中で最高のクリスマスプレゼントだよ。
だからさ、もう少し待っててね。
来年は僕が奇跡を起こすから…。
来年は僕がサンタに最高のプレゼントを贈るから。
だから…それまで待っててね。サンタ!



あ、そうだ。
僕たちに連絡がとりたい場合は、手紙を書いて暖炉に投げてみなよ!
そうすれば、どこよりも誰よりも早く僕たちに届くよ。
これで僕の話はお終い。


皆、メリークリスマス!!




END




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完結しました。
これは、結構昔に書いたものをアレンジしました。

さて、また記憶喪失の子が出てきました。
実はその子はサンタクロースで…。

ジェイクは、サンタに会った事でまた奇跡を信じる事が出来るようになりました。
不思議な少年アレックス。
彼はアレックスでは無く、サンタクロースで妖精が迎えにきます。
でも彼はその事を覚えていなくて…。
そして彼の記憶が戻った時、彼の起こした奇跡を見てジェイクは素直に感動します。
そして奇跡や夢をもう一度信じる事が出来るようになりました。

信じていれば、きっと奇跡は起こります。
きっとジェイクは心のどこかで奇跡を信じていたんではないでしょうか?
だからこそ、奇跡が起こったのです。

余談ですが、サンタがソリの運転が下手ってどうなんでしょう?

by銀

2005.12.14