クリスマスの奇跡


「おら、さっさと俺が言ったものを用意しないか!!」

殺人犯は、ミチルを身動きとれないように押さえ、ミチルのこめかみに銃口をつきつけていた。
ミチルは…右腕から血を流していた。

「その前にその子を開放しろ!!」

まわりにいた警察の1人の人が叫んだ。
僕たちはちょうど現場についた。
こうゆう男は下手に刺激したら駄目なんだ。
下手に刺激したらミチルが殺されてしまう。

「ジェイク!!? 何で戻って来た!!? サンタも…早く逃げろ!!」

ミチルが僕たちにむかって叫んだ。

「捕まってる奴がそんな事言うな!! それにお前怪我してるじゃないか!!」

今度はアレックスだ。

「そんな事どうだっていいんだ!! とにかく早く逃げろ!!! サンタが怪我でもしたらどうするんだ!? 世界中の子供たちがサンタの事を待ってるんだ!!」
「だから、俺は…っ!!」
「いいから僕の言うことを聞け!! あんたは僕にとって…僕たち妖精にとってたった1人のサンタなんだ!! だから怪我させるわけにはいかないんだよっ!!! それに…皆、あんたの事を待ってるんだ!! 皆…奇跡が起こるのが見たいんだよ…。だから、だから……!!」

また銃声がなった。

「うるせーぞ!! ガキ、死にたいのか?」

さっきの銃声は男が天に向かって、威嚇射撃を撃った。
そして、男はまた銃口をミチルに突きつけた。
今度は引き金に指をかけている。

「まて! そこ子を撃つな!!」

警察の人が男を刺激しないように言った。
僕はさっきの銃弾が戻ってきて、そのままこの男だけにあたれば良いと思った。
でも…銃弾は戻ってこなかった。
急に何か…変な音がした。
この音は、何かがはずれた音。

「あ………」

僕はそれと見た瞬間、自然に声がもれた。
警察の人たちはミチルたちにこっちに来るように言っていた。
ミチルと男は自分たちの上に飛んできているそれを見ていた。

「……ソリ」

アレックスが呟いた。
そう、ソリだ。
さっき男が放った銃弾が、ソリを屋根の上に固定しているものに当り、もしかしたらそのソリはちゃんと固定されていなかったのかよくわからないけど…。
その銃弾はその固定しているものをブチっと切ってしまった。
ソリは屋根をすべり、今にもミチルたちの方に落ちてこようとしていた。
よく、テレビとか映画とかで何かが落ちてきて死んじゃう人がいるけど、そのたびに僕は何故よけなかったんだろう? って思ってた。
その理由が今わかった。
足が地面にはりついてしまっているんだ。
ここから逃れられないように…。

「さがってな、ジェイク」

アレックスが僕の前に出た。
ソリはもうミチルたちの方にせまってきていた。
僕は怖くて目をつぶった。
そして…。

「奇跡だ。まさに奇跡としか言いようがない!」

1人の警察の人がそう言ったのが聞こえた。
そういえば…なんの音もしていない。
そのかわりに…まわりがザワザワとしている。
僕はおそるおそる目を開けた。

「うそっ!!?」

僕は自分の目を疑った。
だって…そうでしょ?
ソリが空を飛んでもとの屋根の場所に戻っていったんだ!!

「アレックス、今の見た?」

アレックスは満足げに笑っていた。

「俺はアレックスじゃない。サンタだ」
「サンタ!! ついに思い出したんだね!!?」

ミチルが嬉しそうに言った。
僕には何が何だかさっぱりだ。

「色々迷惑かけたね。さってと…後始末をしますか」

アレックスが指をパチンとならした。
その瞬間、ミチルを押さえていた男だけが空中に浮いた。

「なっ!!? おろせ!!」

男が空中でジタバタした。
男も少し混乱してるように見えた。

「ダメだね。クリスマスにこんな事件を起こし、ミチルに怪我させた罰だ。悪いけど、クリスマスに人を傷つけるような事は絶対させないよ? クリスマスは俺が守る。……ミチル、大丈夫?」

ミチルは撃たれたところを押さえていた。

「これくらい平気だよ。治せる」

ミチルの腕の傷から光の粉みたいなものが出ているのが見えた。
その粉はまるで布と布を縫い合わせるように傷を縫っていった。

「ほら、この人あげるよ」

アレックスは警察の人に向かってそう言うと、また指をならし男を警察の人がいっぱいいるところの真ん中に落とした。
警察の人はもちろんその男を逮捕した。
僕は何が何だかわからなかった。

「あーあ。やっぱりソリの運転が下手だからって、1人でソリの運転練習はするもんじゃないね。ソリ壊れちゃったし…。まーその落ちた時に頭を打って記憶をなくしちゃったんだけどね。ジェイク? ジェイク、大丈夫?」

僕は頭が真っ白になっていた。

「…アレックスは本当にサンタなの? なら、どうして僕の願いを叶えてくれなかったの?」

僕はボソッと言った。
アレックスは申し訳なさそうな顔をして、うつむいた。

「サンタ! もう時間がない! 急がないと!!」

ミチルが時計と外を見ながら言った。
いつのまにか外は暗くなっていた。

「でも、俺…トナカイたちがどこにいるか知らないよ? ソリは粉々になっちゃったし」

あ、もしかしてアレックス…じゃなかった。
サンタが倒れていた時にまわりにあった赤い破片はソリだったのかな。

「トナカイたちの居場所は僕が知ってる。ってまたソリ壊したの!? これで何度目? こんなにソリの運転が下手なサンタは初めてだよ」

ミチルがそう言うと、サンタはエヘヘと照れ笑いをした。

「ま、僕に任してよ。その為に僕がいるんだから」

ミチルが、さっきサンタが屋根の上に戻したソリを見た。
そしてそのソリに手をかざした。
一瞬ソリが眩い光に包まれた。
その時、かすかに鈴の音が聞こえた気がした。

「すごい…。まさに奇跡だ。いったい彼らは…」

まわりにいた見物者の1人が言った。
そうか、まだまわりに人がいるんだった。
僕はまわりを見た。
まだ警察の人も、あの男もいた。
皆今目の前で起こっている事に見とれているんだ。
また鈴の音がした。
ソリはキラキラと輝きながら、光の線を残し僕たちの前にゆっくりと下りてきた。

「さってと、騒ぎにならないうちにずらかろうぜ」

ミチルがそう言い、ソリに乗った。
サンタもそれに続いた。

「ほら、ジェイクも乗りなよ」

ミチルにそう言われて僕は少し戸惑ったが、ソリに乗った。

「何で僕の名前知ってるの? さっきもそうだったけど…僕、まだ名乗ってないよね?」
「ん。僕もジェイクがサンタ宛に出した手紙を読んだんだよ。僕は妖精だからね」
「え? 妖精ってあのサンタと一緒におもちゃを作っている?」

ミチルはコクンと頷いた。
僕はてっきり妖精というのは、小さくて羽がある奴だけかと思っていた。

「それより早くトナカイたちのところに案内してくれよ。時間がないんだろ? それに俺、まだトナカイたちいないとソリ運転できないし」

サンタが時計を見ながらミチルに言った。

「そうだった。じゃあ、皆つかまっててね」

ソリが浮いた。
下でいろんな人たちが何か言ってるのがわかる。
また鈴の音が聞こえた。
ソリはゆっくりと動き出した。
僕はまた驚いた。
いつのまにか空中に光の道ができ、ソリがその上を走っていた。

その瞬間、世界は奇跡に包まれた。



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