クリスマスの奇跡


僕はしばらくハンバーガーの店にいた。
店を出てから初めて時計を見た時には、時計の針は3時をさしていた。

「アレックスはどこにいったんだろう? そろそろ帰らないと…」

僕はキョロキョロとまわりを見ながらアレックスを探した。

「ママー! あれ買って!!」

近くから小さな男の子の声が聞こえた。
その子は赤い車のおもちゃを指さしていた。

「ちょっと待ちなさい。パパはどこに行ったの?」

その子のママがそう言うと、その子のパパらしき人が荷物をいっぱい抱え、レジのほうから急ぎ足でやってきた。

「ごめん、ごめん。レジが凄く混んでいてね」

パパとママと一緒に過ごすクリスマス。
僕が一番望んでいたものを…僕が、一番欲しかったものをあの子は持っている。
何であの子は僕が欲しかったものをたくさん持っていて、僕は何も持っていないんだろう?
こんなの不公平だよ。
僕は急に泣きたくなった。
こらえきれないほどの泪が出てきた。
僕は走り出した。
パパに会いたい、ママに会いたい、でも…会えない。
僕は必死でアレックスを探した。
もう、1人きりのクリスマスなんて嫌だ。


走っているうちに、泪は止まり流れた泪は乾いていった。
僕はいつのまにかあの、大きなクリスマスツリーがある所に来ていた。
何だか…よくわからないけど、警察の人がいっぱいいる。
何があったんだろう?

「うわっ!!」

僕は急にクリスマスツリーの後ろに引っ張り込まれた。

「ミ、ミチル!!?」

僕は僕のことを引っ張り込んだ人を見て、思わずとびあがった。

「あんまり大きな声だすなよ。今、ちょっと大変な事が起きてるんだ。サンタは?」

ミチルは少し深刻な顔をしていた。
それでも、チラチラと時計を見て時間を気にいていた。

「アレックスの事でしょ? 僕も今、探してるんだ」

僕がそう言うと、ミチルは少し不機嫌な顔になって舌うちした。

「ねぇ、何でこんなに警察の人がいるの? 朝はいなかったのに…」

僕はクリスマスツリーの後ろから、顔を出しまわりを見た。
が、すぐにまたミチルに引っ張り込まれた。

「ちょっ!! 気をつけろよ!! 僕が聞いた話って言っても盗み聞きなんだけどね。何か、凶悪な殺人犯がここに逃げ込んだらしい。くそっ!! 何てこった…こんな時に…」

凶悪な殺人犯…。
そういえば前に孤児院の人たちがその話をしてた気がする。
僕は…突然影の中に入ったのを感じた。
僕は視線をミチルから上へと移動した。
そこには…。

「ミチル!!!」

僕は声をあげた。
急にミチルの目が鋭くなり、その影にまわし蹴りをくらわした。

「攻撃が軽いな、おチビちゃん」

影の正体は…1人の男だった。
男はミチルがまわし蹴りをした足を掴んだ。
この人…どっかで見たことがある。
僕は自分の記憶からその男の記憶を探した。
どこだ?
どの記憶?

『最近、この辺に凶悪な殺人犯が潜んでいると…警察から連絡が入った。皆、外に出る時は気をつけるように』

急に僕の嫌いな厚化粧の院長の顔が思い浮かんだ。
確か…手には何かを持っていたはずだ。
…写真だ!!
写真を持っていたんだ。
確か…普通そうに見える男の写真。

僕は急に全身の細胞が悲鳴をあげているのを感じた。

「ジェイク!! 何やってんだ!! 早く、逃げろ!! こいつはさっき話した殺人犯だ!!」

僕はミチルの声で我に返った。
全身の細胞が逃げろと騒いでいる。

「え…何で、僕の名前…」
「いいから早く!! 早く逃げろ!!」

足がこの男の影に囚われてる気はした。
怖い、怖い。
何故か、泪が出てきた。

「早く…逃げろっ!!!」

ミチルの声が僕の全身の細胞に指令を出した。
影から足が放れた。
足の細胞がいっせいに動き出した。
僕は走った。

「おっと、どうしたんだい?」

走っている時、警察の男の人とぶつかりそうになった。
ミチルの事を言わなきゃっ!!
でも…何故か、最初の言葉が出てこなかった。

「ん? ジェイク?」

聞き覚えのある声が聞こえた。
アレックスだ。
今の現状を知らないアレックスがのほほんとやって来た。

「どうした?」

アレックスの声で僕の、のどの細胞が刺激された。
僕はまだ泪を流していた。

「……ミ、ミチルがっ!! ミチルを助けて!!」

それしか言葉が出てこなかった。
突然銃声が聞こえた。
あのクリスマスツリーの、ミチルがいる所だ。

「っ!! ミ…ミチルがっ……!!!」

僕はその場に座り込んでガチガチと震えていた。

「大丈夫だ。私たちに任せなさい」

警察の人がそう言い、クリスマスツリーの方に走っていった。

「俺たちも行こう!! ジェイク、俺がついてる」

アレックスが僕の手をとった。

急に…自分の体が、羽根みたいに軽くなった。 そして、泪も止まった。
アレックスは僕の手をひいて、クリスマスツリーの方に駆けていった。



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