クリスマスの奇跡


「アレックス! 君、さっきから変だよ!」

アレックスは僕の事をぼーっとした感じで見ていた。

「俺も…よくわからないんだ。何か、頭の中に勝手に思い浮かぶんだ。俺って…何なんだろう」

アレックスはため息をついた。

「何なんだろう? 決まってるじゃないか! あんたはサンタだよ!!」

クリスマスツリーの方から声がした。
クリスマスツリーの下には、僕たちと同じ年頃の金髪の男の子がいた。

「君、誰?」

僕がそう言うと、その子は僕たちの方に来た。

「僕はミチル」

ミチルと名のった子は、ちらっと僕の方を見た。
僕には、帽子の下から見えている耳がとんがっているように見えた。

「ミチル?」

アレックスが何かを思い出したかのように言った。
ミチルはアレックスの事をじっと見た。

「サンタ! もう時間がない! 早くしないと間に合わなくなる!!」

アレックスはまたぼーっとしていた。
そして、少し不安そうに見えた。

「俺がサンタ? 俺はサンタじゃない!! ただのアレックスだ!!!」
「違う! あんたはサンタだ! しっかりしてくれよ!! これじゃあ、本当にクリスマスまでに間に合わなくなる!! クリスマスは明日なんだぞ!!?」

ミチルは近くにあった時計を見た。
もうお昼の時間だ。
時間がたつのが早いなぁ〜。
この、緊迫した雰囲気の中で僕のお腹が鳴き声をあげた。

「あ、ごめん。お腹すいちゃって…」

僕は照れ笑いをした。

「俺も腹減ったよ。お昼にしよっか?」

アレックスが笑って言った。
もちろん僕の答えはYesだ。
アレックスがミチルの方を見た。

「あの…俺は…」
「またあとでくる」

アレックスは何かを言いかけたが、それはミチルの言葉によって消されてしまった。
ミチルはかぶっていた帽子を深く被り直し、去っていった。
アレックスはミチルが去るのをずっと見ていた。


それから僕とアレックスは暫く歩いていると、ハンバーガーの店を見つけ、そこでお昼を食べる事にした。
もちろん、ここもクリスマス一色だ。
この辺でクリスマス一色じゃないって言ったら…あの孤児院ぐらいだろうなぁ。
僕たちは、ハンバーガーとポテト、そしてホットミルクを頼んだ。

「アレックスって…本当にサンタなの?」

僕は空いている席を見つけ、そこに座った。

「え? 何でそんな事聞くの? そんなのわかりきった事じゃないか」

アレックスがハンバーガーを食べながら、モゴモゴと言った。
アレックスは何故か、ちょっと不機嫌だった。

「何んでって…アレックスが不思議だからだよ。何も覚えてないのに、自分が誰かもわからないのに、クリスマスの事は覚えてるんだもん」

僕がそう言うと、アレックスはますます不機嫌になった。
アレックスは急いで食べ終えると、席を立った。

「どこ行くの?」

僕はまだ食べていた。
アレックスは僕の方を見た。

「その辺ぶらついてくる。何か思い出せるかもしれないし…」

アレックスはそのまま店を出た。
僕は1人になった。

アレックスはきっと不安なんだ。
自分が何者かもわからないのに、クリスマスの事は知ってるから。
でも、アレックスは僕から見ても…サンタクロースを信じない僕から見ても、サンタみたいなんだ。
だから早くアレックスには自分を、自分の事を思い出してほしい。
僕もアレックスの事が知りたいから…。



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