去年の不思議な前夜祭


善行(よしゆき)は憂鬱な気分だった。
ガキ大将である勝(まさる)が、今日の夜学校に忍び込むと、収集をかけたのだ。
事の発端は、クラスメイトの若松が三階理科室前の廊下で変な影を見たことである。

「おー。善行、ちゃんと来てんじゃん。俺達より早く来るなんて、やる気マンマンか?」

八時を三分過ぎた頃だ。勝と宗一郎が現れた。
勝は早く来た善行を見てゲラゲラと笑った。
三人は校門の脇にある小さな扉から学校の敷地内に入り、三階へと向かった。
三階の廊下に出た時、後ろから誰かに見られている感覚と背筋がゾっとするのを感じた。

「な、何だ。今の感じ」
「嫌だな。勝、まさか怖がってるの?」

冷や汗をかく勝に、宗一郎がバカにしたように言った。

「な、何バカ言ってんだ! 俺に怖い物なんかない! ほら、行くぞ!」

勝はそう言い返したが、肩が震えていた。何かがおかしい。
三人ともそう思っていたが、勝は怖がっていないとでも言いたいのか、ドスドスと歩き理科室の方へと向かった。 その後を宗一郎がついて行く。
善行は恐怖で動けなかった。何かが善行の隣を風の様に通り、勝と宗一郎の悲鳴が響き渡った。

「勝、宗ちゃん!」

善行は何かあったと感じた。善行は走り出していた。たった一人で。
理科室前の廊下で二人は気を失っていた。二人の前から人の気配がする。暗くてよくわからないが。

「誰なの?」

若松が見たという影の正体だろうか。
深緑色の髪をした男の子が現れた。

「早く帰れ。職員玄関も閉まっちゃうよ?」

善行は、この男の子を怖いと感じなかった。
見たことないが、生徒だと思ったのだ。

「君は帰らないの?」
「もうちょっとしたらね」

そう言って、男の子は理科室の中へと入った。
善行は気を失った二人をずるずるとひっぱり、階段の所へ連れて行く。
三階に来た時に感じたような恐怖はなくなっていた。
若松が見たのは学校に忍び込んだ子か、忘れ物を取りに来た子ではないだろうか。
あの子もきっと僕達と同じだろうと結論に達した。風の事なんか、勝が重いせいですっかり忘れていた。

「ほら、二人とも起きて。特に勝」

階段に入る前に、善行は二人を起こした。
二人は唸りながら目を覚ました。

「何があったんだっけ?」
「もう、勝はだらしないなぁ。宗ちゃんも」

善行は、呆けている勝を見て、ケラケラと笑った。
勝は不思議そうに、宗一郎と顔を見合わせた。
善行は影の正体を話した。勝は安心したかのようにほっと溜息をついた。
だが、宗一郎は納得できなかった。まずあの男の子。あんな子学校で見たことない。
それに宗一郎も感じた奇妙な風と、三階に来た時感じた恐怖。
何より気を失う前に何かを見た気がする。
あの男の子じゃなくて、別の何かが後ろからやって来て、前に来た。
それを見て、あまりの恐怖に気を失った。

「早く帰らないと職員玄関、閉まっちゃうよ」

善行は階段を駆け下り、勝もそれに続く。宗一郎は、理科室の方を見る。
人の気配を感じたからだ。そこには、さっきの男の子が立っていた。

「世の中には知らない方がいい事もあるんだよ」

ニヤリと笑う男の子。男の子理科室へと向かう。宗一郎は、後を追った。
闇の中、見失わないように走っていると、理科室前の廊下で宗一郎は何かに躓き、転んだ。

「いってっ……」

膝を擦りむいた。宗一郎の足元には何故か、そこには理科室の骸骨が倒れている。
しかも、その骸骨、動いているではないか。

「ひっ、な、何で動いてるんだよ?」

驚き、小さく悲鳴をあげる宗一郎。
そんな宗一郎の前に、さっきの男の子が現れた。

「ついて来ちゃったの? 知らない方がいいこともあるって忠告したのに。夜は僕達の世界。君、呪われちゃうよ?」

男の子は、動く骸骨を担ぎ、闇の中へと消えた。
宗一郎は怖くなり、急いで善行達のもとへ戻った。

次の朝、先生が学校へ行くと理科室から骸骨が消えていた。



  >>モドル

僕らの不思議な夏休み番外です。
宗一郎が、前の年によつばと会った話。
実は、僕らの不思議な夏休みはこの話しを書いた後に書きました。

2012.03.03