猫の就活生


二〇一〇年一月。一月もほとんど終わりに近づいている。いや、まだ一月は始まったばかりか? そうだな。まだ、この時期では終りとは言えないな。
もしかして、俺はずいぶんと焦っているのか? だから、こんな時期でももうすぐ一月が終わりと思ってしまうのだろうか?
昨日から大学の授業も始まり、今月末には卒業論文の提出期限が迫ってきている。つまり、大学に行くのもあとわずかということか。同時にあとわずかで卒業ということなのだ。
そう考えると、まだ進路の決まらない俺は、不安と焦りと覚える。やっぱり、俺は焦っているのか。焦っても、あまり意味ないとは思っているのだが……。
やりたいことはあるけれど、出来るかわからないし、親に言いだす勇気もないから誰にも相談できない。否定されるのが怖いから。
それに、それはそんなにやりたいことなのかもよくわからない。
そんなことを考えながら、今日もリクルートスーツに身を包み、駅に向かう。夏ごろは、スーツ姿の人も結構見たが、今じゃほとんど見なくなっている。
見かけても、きっと三年生だろうと思ってしまう。俺が、あまりの暑さでダウンしていた時期に皆は内定を貰ってしまったのだろうか? 俺も、我慢してスーツを着て就職活動をすれば良かった。
だけど、ダウンしていたんならしょうがないだろう。それに、もう過ぎたことだ。今更何を言ったって取り戻すことはできない。
そもそも、政府がいけないんじゃないのか? リーマンショックだか、何だかの影響をこんなに受けるなんて。あれは、アメリカで起こったことだろう? いや、今の不況だけのせいじゃない。
不況のせいにしてはいけない。俺にも何か問題があるから内定が貰えないのだ。それは、わかっている。だが、どこが問題かがわからない。
もう、内定とか内々定は、都市伝説のような気もするよ。
姉さんが就職活動していた二年前は、売り手市場でその波が俺のときもあると思っていたのにな。きっと、今年の内定はやっぱり都市伝説なのかもしれない。




駅の改札で、スイカをピっとやり、駅の構内に入る。スイカの残りの金も後九八〇円か。もうそろそろ、チャージしないといけないな。だけど、スイカの金が減ると、俺のお金も減る。
コンビニのバイトも十二月でやめたから、収入は小遣いだけだ。しかも、五千円の小遣い。
普通ならこれでなんとかやっていける金額だが(俺はそんなに買い物とかをしない)、就職活動のせいで俺の財布は赤字。黒字になったことがない。このせいで、俺は大切な本や漫画を売った。
もう、親に金をくれだなんて言い出せない。だから、俺の財布が酷い赤字にならないように、東京までは一番安い電車賃で行くんだけど、ちょっと時間かかるからめんどうだ。時は金なり。
だけど、それはきっと、金がある人だけだ。金がなきゃ、そんなことは出来ない。今は定期もないから、結構きつい。
まぁ、就職活動は金がかかることは知っていたんだけどさ。姉さんから聞いたし。
だけど、まさか就職活動にここまで時間がかかるとは思わなかった。最低でも、内定式がある十月には決まると思っていた。
卒業旅行の金とか、ホントどうしよう。親に借りるっていっても、今は返す当てがないし。金がないから、早く終わりにしたいが、内定もないし、やりたいこともよくわかんないし。
やりたいことが、本当にやりたいのかもよくわかんないし。だから、俺は、就職活動をしている。働く自分何かイマイチ想像出来てもいないのに。
きっと、それも落ちる原因の一つなのかもしれない。


ホームで電車を待っていると、時間通りに快速が来た。しかも、今は昼過ぎってこともあって、かなりすいていた。
俺は、はじっこの席に座ることが出来たけど、快速だと四つ目の駅で降りるからそこまで座りたいって思ってはいなかった。まぁ、空いているなら座ってしまえ。
席に座り、鞄を足元に置く。そして、電車の中を見渡した。電車の中には、色々な人が乗っていて、やっていることも違う。
必死でパソコンをうっているサラリーマンみたいな人。スーツにネクタイだからそう見えただけなのかもしれない。優先席の前で立っている妊婦さん。妊婦さん、久々に見た気がする。
そして、優先席に座ってノリノリで音楽を聴いている女の人。音もうるさいし、立っている妊婦さんに席を譲ればいいのに。と、ゆうか優先席はそうゆう人たちの席だろう。
他には、本を読んでいる人、ゲームしている人、ケータイをいじっている人、寝ている人。誰もが皆、まわりを見ていない。自分のやっていることに夢中でまわりを見ていない。
それか、気付いていない振りをしているのか? 俺はいつのまにか立ち上がり、妊婦さんに声をかけていた。

「あ、席どうぞ。もうすぐ降りますんで……」
「ありがとう。でも、大丈夫よ」

そう声をかけると、妊婦さんはにっこり微笑んだ。まさか、断られると思っていなかったこともあり、恥ずかしくなり、俺は席に戻るわけにもいかず、違う車両に移動した。
人助けって難しい。そう思いながらため息をついた。


乗り換えの駅につき、改札を出て私鉄からJRに乗り換えた。JRはいつも混んでいるイメージがあるけど、やっぱり混んでいた。
しかも、電光掲示板で確認したところ、どこかの線で人身事故が起こったらしい。線の名前は確認できなかったけど。とりあえず俺の乗る電車は関係なさそうだ。
それにしても、最近人身事故が多い気がするが、気のせいか? そう思いながらも、各駅停車がとまるホームに向かい、ちょうど停車している電車に乗り込んだ。
電車に乗って、すぐにケータイで、しかも大声で電話している太った女の人が目に入った。すごくうるさくて、イラつく。
きっと、この車両に乗っている人もそう思っているはず。だれも、注意したりはしないけど。そう思いながらも、ドアの前に立ち、窓から外を眺めた。ただ、ぼーっと外を眺めた。 女の人は、ずっと電話で話していた。俺が降りた後も話していた。八つ目の駅だから、結構時間は立っているはずなんだけどな。



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