カノープス


その日の夜、僕たちは子供部屋で寝る事にした。
この部屋を出てから一度もこの部屋で寝たことはないし、ポラリスと同じ部屋で寝たこともない。
でも、何だろう。僕もポラリスも急にこの部屋に寝たくなったのだ。理由なんてない。
何でかわからないけど、何かが起こるような気もしていた。

「今日もオリオンは帰ってこなかったね」

ポラリスが、ベッドに入りながら言った。カーテンの閉まっていない窓からキラキラと光る星が見える。

「きっともう直ぐ帰って来るよ。そんな感じがするんだ」

部屋の電気を消し、僕もベッドに入った。
一瞬だけ、闇が訪れたけど、僕ははすぐにベッドの脇に置いてあるランプをつけ、闇をほんのりと明るくした。
このベッドも、ランプも懐かしいね。

「ポラリス、カーテン閉めて。外が煩いよ」

さっきまで、星空が見えていたのにいつから雨が降ってきたのか。ザーっという雨の音が聞こえてきた。
しかも、風も強いらしく、窓がガタガタとゆれた。
この強い風がどこからか雨雲を運んできたのかな? 天気予報で雨が降るだなんて聞いてないもんなぁ。
もしかして、僕が知らなかっただけ?

「うん。いいよ。でも、ベッドに入る前に言ってほしかったなぁ」

ポラリスはベッドからおり、ボソっと呟いた。
相変わらず、僕は雨の音が嫌いで、布団をすっぽりと被った。これで少しはいいはず。
雷とかなったらどうしよう。雷はどうしても好きになれない。

「うわぁあぁああ!?」
「な、何? 雷!?」

急にポラリスが叫び声を上げた。びっくりした。
その声にもびっくりしたけど、一番びっくりしたのは、窓の方を見たら窓の外に人らしき影があることだ。
ドンドンと窓を叩いている。ここは三階なのに!
窓の外の人物はこの雨のなか必死に窓を叩いてくる。
僕たちに何か用でもあるのだろうか? ポラリスは窓に近づき、外の人物を見ようとしていた。
そんな時、外が一瞬明るく光り、僕はうめき声をあげた。

「オ、オリオン!?」

ポラリスのびっくりした声。
何だって!? オリオンだって!? ポラリス急いで窓を開け、闇の中雨でびちょびちょになっているオリオンを部屋へと招きいれた。
そうか、オリオンは黒い髪だから誰だかわかるのに時間がかかったのかもなぁ。僕はバスタオルを取りに行った。

「カノープス! オリオンだよ。オリオンが、はやくタオル持ってきて!」

ポラリスが、オリオンから絨毯を受け取りながら、僕にそう言った時には、僕は部屋の電気をつけ、バスタオルを持って走っていた。
ちょうど、オリオンが窓を閉めたときだ。少し長くなったオリオンの尻尾から水滴が落ちた。

「お、悪いな。ありがとなー」

オリオンは僕からバスタオルを受け取り、髪を縛っている黄色のゴムをほどき、髪の毛をわしゃわしゃと拭いていた。
その間にポラリスは暖炉の形をしている電気ストーブをつけ、その前に絨毯を敷いた。乾かすために。
この電気ストーブまだ壊れていなかったんだね。

「ったく、とんだ災難だぜ。オリオン座がお前たちも心配しているからって言われてきてみたら来れだもんなー」

オリオンはぶつくさと椅子に座りながら文句を言った。
何か、どこかで見た光景だな。僕は、おかしくなって思わず笑いそうになった。オリオン、顔が少し腫れているみたい?

「ベラトリックスも、リゲルも泣かせちまったし、ペテルギウスには殴られるしさ。 アルカイドは口を聞いてくれないし、あぁ、シャウラは元気そうだったな」

オリオンは前と同じようにニカっと笑った。僕たちもつられて笑った。
何だ、何も変わってないや。相変わらずオリオンの尻尾もあるし。
背も伸びて、昔は華奢だったけど、少し体格も良くなったみたい? それでも、オリオンはオリオンのままだね。
記憶を取り戻してもオリオンはオリオンだね。そんなのわかっていたことじゃないか。

「ねぇ、二年もどこに行っていたの?」

ポラリスがそう問うた。僕もそれが聞きたかった。オリオンはだまりこんで、言葉を探していたけど、話し出した。
「……俺が、生まれた所とか見に行ってたんだ。死にかけた海、父さんたちと暮らした家。 暫くそこで暮らしてみたりもしたけど、どうもしっくり来ないんだ。 記憶が戻ったっていうのに、どこを見てもパッとしないで、違和感がある。 別に懐かしいとかも思わなかったしさ。それで、実感したよ。俺の故郷はここなんだなって。 俺の居場所は皆のいるこの場所なんだなって実感したんだ」

オリオンはニカっと笑った。オリオンが帰ってきた。僕たちの所に。
僕とポラリスは、嬉しさのあまり、オリオンに抱きついた。オリオンは笑っていた。いつもの、昔と変わらない笑顔で。
僕は知っていたよ。あの星がオリオンに想いを届けてくれたことを。
皆の想いを、僕の想いを。だから、きっと今日何かが起こる感じがしたんだ。



これから、僕たちは歳をとり、大人になる。それは当たり前のことで、誰にも止められない。
誰かが、僕たちが輝いている時間は短いと言っていた。
でも、それは違うんだ。僕たちは、ずっと輝いているんだ。あの夜空に光る星たちのように。


キラキラ光る星たちは、僕にすてきな経験をさせてくれた。
これから僕たちは、どんな大人になるんだろうね、楽しみだね。


あ、これは余談だよ。オリオンとベラトリックスは上手くいったんだって。


これで、僕の、僕たちの物語はおしまい。
また会えたらいいね。  




END




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オリオン座物語、これにて完結でございます。
何年か前にオリオン座シリーズとして、完結させたものを題名を変え、リメイクしたものです。
ところどころ違うところがあるので、前作を知っている方は探して見てください。

さて、前作と同じくテーマは子供の成長。
最終部にはオリオン座メンバーも、他の子たちも大人ではありませんが、大人になります。
心に傷を追った子たちが、オリオンと出会い、大人になる決心をします。
また、オリオンも彼らと出会い過去を取り戻す決心をしました。

彼らは一体どんな大人になるんでしょうか。
きっと、夢を持ち続ける大人になって欲しいと思います。
皆、大人の都合に負けるな!

2011.09.30