最後の奇跡

サンタと僕は6年の歳月を一緒に過ごした。一緒にたくさんの奇跡をおこし、色々なクリスマスを体験した。
でも、僕は大人になりつつあった。6年という歳月は大きいもので、身長も伸び、いつしか僕はサンタを見下ろすようになった。
だけど、サンタは何も変わらなかった。妖精の血が入っているからと本人は言っていたけど、僕だけが変わった。
妖精たちはいつまでたっても子供の姿のままだ。家に入るのにも頭をぶつけちゃう。
そうなんだ。僕はサンタクロースから卒業しなきゃいけない年齢になったんだ。

「ミチル、何か手伝おうか?」
「大丈夫! ジェイクはゆっくりしてて!」

僕は忙しそうに駆け回るミチルに声をかけた。
ミチルは知っている。僕が手伝うより、自分たちでやっちゃった方がはやいってことを。
もう、僕じゃ奇跡を起こせないってことを知っているんだ。


僕は、ただ皆がプレゼントの配達の準備をするのをぼんやりとみていた。
今日はイブ。今日が一番大変だけど、みんなこの日のためにやってきた。終わったあと、どんなに盛り上がるか僕は知っている。
だけど、僕は1人ネガティブだ。せっかくのクリスマスだというのに。
妖精たちがヒソヒソと何かを話していると僕のことだと思ってしまうくらいには。僕は深い溜め息をついた。

「なーに溜め息なんかついてんだよ。もうすぐクリスマスだってのにさ」

聞きなれた声。ふと隣を見ると、サンタが立っていた。
6年前から変わらないサンタ。きっと今年も素晴らしい奇跡を見せてくれるんだろう。

「何でもないよ、サンタ」

僕は苦笑した。子供の時よりもごまかすのがうまくなった気がする。サンタはにかっと笑った。

「ジェイクは今年もソリに乗ってくれるだろ?」

サンタは大きなクリスマスツリーをバックにし、問うた。
出会ってから、僕はずっとサンタのソリに乗ってきた。サンタとミチルと一緒に。
ナイジェルの時やアレックスの時だって。きっと彼らも大人になり、そろそろサンタから卒業しなければならない時期だ。

「うーん。今年はどうしようかな」
「何だよー!? また、ソリ墜落させると思ってるのか? 俺だってだいぶうまくなったんだぞ」

ムッとするサンタ。知ってるよ、ちゃんと。まだ危なっかしい所はあるけど、墜落はしなくなった。
ミチルはいつもハラハラしてるらしいけどね。

「知ってる。でも、今年はちょっと考えさせて」

僕は苦笑し、サンタから逃げるように離れた。
僕が悩んでいるのは、ソリに乗るか乗らないかじゃない。
もしかして、僕も彼らみたいにサンタクロースから卒業しなければならないのかもしれない。
でも、ここを出てどうするの? 僕には帰るところがないのに。僕はまた大きな溜め息をついた。 だって、ここに来たときはずっとここにいられるものばかりと思っていたんだもの。
でも、きっとそれは違う。誰も出て行けとは言わないけれど、いつかはここを出なければいけないんだ。

「何で人間がいるんだ?」

うじうじしているとサンタの声が聞こえた。ん? でも、おかしいぞ。確かにサンタの声だけど、セリフがなんか変だ。
だって、ここに僕を連れてきたのはサンタじゃないか。まさか、サンタはまた記憶を失ったのか? 僕はキョロキョロとあたりを見渡し、目の端に何かをとらえた。

「え、何、その服装」

建物と建物の間にサンタはいた。だけど、服が違う。
いつもの赤と白ではなくて、黒と茶色だ。目つきもいつもより悪い気がする。

「何だよ、うるせーな。それより何で人間がいるんだよ」

サンタは不機嫌な顔をした。本当にサンタなのだろうか。ちょっと違う気もするけど……。

「あ? 何見てんだよ?」

見下ろされてることか、それともジロジロと見られていることに腹が立ったのか、がんを飛ばしてきた。
何だかすごく怒りっぽいな。

「えーと、サンタ?」

僕はおずおずと問うた。記憶がなければ自分がサンタだってこともわからなはず。そしたら、急いでミチルたちに知らせないと。
サンタはムっとした顔をした。

「違う。俺はブラックサンタ。一緒にすんな」

フンと鼻をならすサンタ。
え、ブラックサンタ? 何それ。確かに服は黒と茶色。でも、そんなサンタは知らないし、6年ここにいるけど、一度も話にあがったことはない。

「ん? あいつの仕業か。ここに人間がいるの。あいつは何やってんだ。暫く留守にしてる間によー。妖精たちも何も言わねぇのかよ」

ブラックサンタは、ブツブツと文句を言い始めた。
あいつっていうのはサンタのことなのかな。サンタとは別人っぽいけど、まさかサンタの別の人格とか……ないか。

「わっ!?」

僕はいきなり、腕を掴まれた。そのままブラックサンタに引っ張られる。

「ちょ、何するんだよ!?」
「何するもこうもねぇ! あいつの所に行ってなんで人間がいるのか聞くんだよ!」

ギロリと睨まれた。本当に目つきが悪く、思わず身震いしちゃう。
サンタと同じ顔なのに、ここまで目つきを悪く出来ることにも驚きだ。僕は何回目かの深い溜め息をついた。



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