最後の奇跡

サンタはブラックサンタのところにやってきて、目の前でパチンと指を鳴らした。
すると、ブラックサンタは目をパチクリさせ、むくりと起き上がった。男の人たちが「おぉ!」と喜びの声を上げた。

「まさに奇跡だ! クリスマスの奇跡だ!」

いっきに場が盛り上がる。さっきまで「どうしてクリスマスにこんなことが」とぼやいていたのに。

「たーっく、世話かけさせんなよな。こんな忙しい時に。さて、ジェイク。帰ろうぜ」

サンタはブラックサンタに文句を言ったあと、僕を見て笑った。
サンタは忙しいのに僕を追ってここまで来てくれた。うん、僕はそれだけでじゅうぶんだ。
僕の大切な友達。ごめんね、一緒にはもう行けないよ。僕の心は決まったんだ。

「ごめん、サンタ。いけないよ。僕はこっちの世界に戻るって決めたんだ。 こっちでパパとクリスマスを過ごし、大人になる。だから、もうサンタとは一緒にいられないよ」

平静を装っているけど、全然平気じゃない。だって、ここで別れれば僕はもう二度とサンタには会えなくなるかもしれないんだ。
僕に、信じる心を教えてくれた大切な友達。でも、もう僕はサンタクロースから卒業しなきゃ。
サンタはうつむいた。肩が震えているから泣いているんだと思う。僕だって泣きたい。だけど、クリスマスに涙は似合わない。

「それより、サンタ! はやく行かないと間に合わなくなっちゃうよ! また、ミチルに怒られるよ!」
「……おう! そうだな!」

僕がそう言うと、サンタは涙を拭い、笑ってくれた。そうだよ、君は笑っていてくれないと。
僕は夜中まで起きていられるようになった。きっと、空を見上げれば君に会えるはず。 そしたら僕は君の大好きなクッキーと牛乳を用意して、君が来てくれるのを子供みたいに待つんだ。
来てくれなくても、君を見かけたら大きく手を振るよ。

「ブラックサンタもありがとう。君のお陰で、僕は決心出来たよ」

僕はブラックサンタに帽子を渡し、笑いかけた。
ブラックサンタは恥ずかしいのか何だかわからないけど、ムスっとした顔をした。
サンタはそんなブラックサンタを見て面白そうに笑い、小声で僕に耳打ちしてきた。

「ジェイクだけ特別。俺の名前はニコラス。あいつはループレヒト」

いつもの笑顔のサンタ。僕は何だか嬉しくなった。哀しいのに嬉しいって何か変だね。

「うん。ありがとう。またね、ニコラスにループレヒト」

サンタとブラックサンタだけに聞こえるように言う。2人は笑ってくれた。あのブラックサンタも。
別れというのは案外あっけないもので、サンタを追ってきたのか、ミチルがやってきて、2人を引っ張って行った。

「はやく! もう時間がないよ!」

時間なんてあるくせに。僕はクスっと笑った。どうやら今年からはブラックサンタがソリに乗るみたいだね。
悪い子専門のサンタだって本人は言っていたけど、僕は知っている。サンタと同じくらい優しいってことを。

「あ。バイバイ、ジェイク!」

ミチルは思い出したように振り返り、そう言った。
直ぐに2人を連れて何処かへ行ってしまったけど、それがいつも通り過ぎておかしくて、思わず僕は吹き出して笑った。

「ジェイク、一体彼ら何者なんだ?」

隣にいたパパが不思議そうに首をかしげる。
現場は落ち着きを取り戻し、再びニセモノがサンタの振りをしたが、本物を見たあとだ。誰もニセモノには寄り付かなかった。
大人たちも子供たちも目をキラキラさせて、信じる心を取り戻した。だって、目の前で奇跡が起こったんだもの。
中には6年前にも見た! という人も出てきた。そのうちサンタが降り立った街とか名前がつきそうだよ。

「サンタクロースと、ブラックサンタクロースと妖精だよ。皆、僕の友達なんだ。僕は6年間、彼らと一緒に過ごしたんだ」

夢のような6年間。サンタの傍でたくさんの奇跡を見た。
僕は、大人になっても、この6年間を、信じる心を忘れないだろう。




これで、僕とサンタの話はお終い。
皆、メリークリスマス!  




END



 



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完結いたしました。
長年書いていたクリスマスシリーズもこの一行では完結です。
本当は書くかとうが迷っていたんですけど、ブラックサンタを出したくて書きました。

ジェイクは大人になりました。大人になると、サンタは来ません。
そのため、ジェイクも卒業しないといけないのかなって思うのです。でも、いく場所がない。
そこでお父さんとの再会とサンタの奇跡。それで、もといた場所に帰ろうと思うのです。

きっと、ジェイクはまたサンタ一行に会える。
それは、来年にでもね。

2012.12.21