最後の奇跡

現場は、あのニセモノがいる所だった。倒れているのは列の隣にあったプレゼントが詰みこまれていた棚。
今じゃ、プレゼントは床にばらまかれていた。
小耳に挟んだ会話によると、横入りをしたとか何かで、大人たちが喧嘩をしはじめたらしい。
ソレは次第に殴り合いの喧嘩になり、1人の男が吹っ飛ばされて棚にぶつかった。その衝撃で何も固定されていなかった棚は子供達が並んでいる列目掛けて倒れた。
初めに中に入っているプレゼントがばら撒かれて。どうやら棚も、重たいものが上にあって、余計に倒れやすくなっていたらしい。
さらに会話によれば、小さい子たちが下敷きになりそうなところを、1人の少年が男の子たちを突き飛ばし、庇い、その少年が下敷きになったそうだ。
子供達は泣いていて、喧嘩してた大人たちは呆然としている。ニセモノだってどうしていいのかわからず立ち尽くしている。

「ジェイク、パパたちも手伝うぞ!」

パパはそう言って、棚を起こしている人たちの中に入った。
僕もその中に入ろうとしたとき、嫌な物を見た。

「あれ、これって……」

棚の脇に落ちていたのは、黒いサンタの帽子。ブラックサンタが被っていたものだ。
そういえば、彼はどこに行っちゃったのだろうか。

「いそげ! 引っ張り出せ!」

男の人の声で、僕は我に返った。僕の嫌な予感は的中した。
大量のプレゼントと棚の下から出てきたのは、銀髪で、黒と茶色のサンタ服。彼しかいない。彼が下敷きになったんだ。

「ブラックサンタ!」

僕は駆け寄った。固く目を閉じ、気を失っている。誰かが救急車と叫んでいる。
嫌だよ、こんなイブに、こんなこと……。僕は一体どうすればいい? 一体、何が出来る?
助けられた子供達は母親に抱きしめられ、その腕の中で泣いていた。
喧嘩していた大人たちもやっと我に返り、謝っている。僕はポケットの中をまさぐった。
響いたのは、リンという鈴の音。僕の手が、鈴に触れた。6年前、サンタから貰った鈴。もしかして奇跡が起こるかもしれない。
僕は鈴を取り出して、音を鳴らす。だが、何も起こらない。ただ鈴の音がするだけだ。あぁ、やっぱり僕には奇跡を起こせないんだなって、絶望した。

「おい! 大丈夫か? どこか痛むところはないか!?」

気を失っていたブラックサンタの目が開いた。まだ焦点はあっていない。
子供達は「お兄ちゃんが死んじゃう」と泣き叫んでいる。パパも、男の人たちもブラックサンタに呼びかけるが、返事がない。
目はあけたがまだ意識がはっきりしていないんだ。もしかして頭を打ったのかも。もし、後遺症とか残ったら……どうしよう!

パチンと音がした。その音が鳴った瞬間、棚はもとあった場所に戻り、プレゼントも全て棚のなかに戻った。
何の音だろうと思った。何が起こったのだろうと誰もが思った。
キョロキョロとまわりを見渡してみると、彼がいた。ニセモノの横に本物の彼が! ニセモノは驚き、彼を見ていた。
サンタは僕を見て、ニッと笑った。何だか物凄く安心した。だけど、同時にやっぱり僕は人間の世界に帰らなきゃなとも思った。    



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