最後の奇跡

ワールド・ショップは相変わらずで、6年前と同じくニセモノであふれている。
写真撮影しているニセモノ、あっちの通りにもニセモノ。お店の人もサンタの衣装だ。
だけど、誰もブラックサンタの衣装を着ているものはいない。
相変わらず混んでいる。僕は6年前、ここで殺人犯に出会ったんだよね。ミチルが人質にとられて、サンタが奇跡を起こした。
懐かしいと思うけど、もうあんな目には会いたくない。

「はい、サンタさんにお願いしてー」
「あのねー。新しいボールが欲しい!」

子供の声がした。横を見てみると、家みたいな所にニセモノがいて、男の子を膝の上に乗せている。
視線を移すと、ずらりと列が出来ていた。そういえば、6年前にもこんなことがあったよね。
家には「サンタとお話ししよう!」って看板が下げてある。子供達が並んでいる列の隣には、棚にいっぱい詰まったクリスマスプレゼント。

「おい。早くしろよ」

列を見ているとブラックサンタに呼ばれた。ブラックサンタはニセモノには目もくれない。
先を行くブラックサンタについていき、ついた所はカフェだった。ブラックサンタはそこで足を止めた。

「ここに電話の人がいるの?」

客なのだろうか、それとも店員なのだろうか。孤児院のおばさんだったら嫌だなぁ。

「えーっと、あ! あの人だ! おーい!」

ブラックサンタはずかずかと店の中に入り、窓際のテーブルの所でコーヒーを飲んでいる男の人に声をかけた。
何だかどこかで見たことがあるような顔だ。いや、あの目にあの顔。忘れるはずがない。
もう髪はだいぶ白髪交じりになり、顔に皺も刻まれているけど、僕が見間違えるはずが無い。

「パパ?」
「ジェイク!」

パパは僕を見つけると笑顔になった。やっぱりそうだった。
パパは飛び上がるように立ち上がり、僕を抱きしめた。そうか。電話の相手はパパだったんだ。

「じゃあ、俺はこれで。ちゃんと話し合えよ」

ブラックサンタはひらひらと手をふり、行ってしまった。
そんなことよりパパだ。何でパパが。パパは再婚したんじゃなかったっけ?

「どうしてパパが? 再婚したって聞いたけど」

僕はパパを引き離し、パパの向かいの席に座った。
もしかして、パパはずっと僕を探していたの? 僕がサンタの所に行ったあと、迎えに来てくれたの?

「あぁ、確かに再婚した。ママが死んだ時、パパは物凄く落ち込んでな。 それで仕事をやめさせられた。仕事もろくに手につかなくなったんだ。だから、お前を孤児院に預けたんだ。 お前を養えなかったから。その後、どうにか仕事が見つかったが、安い給料でな。そこで知り合った女性と再婚したんだ。 やっとまとまったお金が出来てお前を迎えに行こうと思ったら、お前は孤児院には居なかった。院長に聞くとクリスマスイブから戻らず、 警察に出したとのことだ。それで、お前を探すのに夢中になっていたら、再婚相手には、子供を連れて出て行かれたんだ」

パパはそう苦笑した。僕は何だか胸が熱くなった。
パパは僕を捨てたわけじゃなかったんだ。もしかしたら僕のことを忘れてたこともあったかもしれない。だけど、ちゃんと迎えに来てくれた。ずっと探してくれていた。
でも、6年前だったらきっとこんなふうには思えなかった。

「大きくなって驚いたが、もうお前を1人にはしないよ。置いて行ったりはしない」

ニコっと笑ったパパ。口元の皺が目立つ。
パパってこんなに小さかったっけ。僕が大きくなったのかな。
パパと行けば、僕がずっと望んでいたクリスマスが過ごせる。ずっとパパと一緒のクリスマスを過ごしたかった。でも、それは……サンタたちとの別れを意味している。

「パパ、僕は……」
「大変だー! 棚が倒れて男の子が下敷きになってる!」

誰かが大声で叫び、僕の声はかき消された。一気に周りがざわめく。
店にいた人たちもお金を払い、外へと飛び出した。

「ジェイク! 私達も行こう!」

それはパパも例外じゃなかった。



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