最後の奇跡
街はクリスマス一色で、この時期は本当にきれいだと思う。もちろん、サンタの住みかにはまける。
初めはここがどこだかわからなかった僕だけど、暫く歩いていると見たことがある建物が目に入り、僕はここがどこだか知った。
「ワールド・ショップだ。大きくなってる」
僕の眼に大きなショッピングモールが入った。ロゴだってマークだってちゃんと覚えている。
僕は6年前、サンタをあそこに連れて行ったことも覚えている。そこでミチルと会ったんだ。
昔はもっと大きく見えたけど、気のせいかな? 昔より、小さく見える。
ワールド・ショップがあるということは、ここは僕がいた街だ。回りを見渡せば、変わっている所もあるし、変わっていない所もある。
そういえば、僕はこの辺に来たことがあるかもしれない。
「何だ、お前。あそこに行きたいのか?」
ブラックサンタは顎で、ワールド・ショップをさした。
さっきから、ちっともニコリともしない。
「そうゆうわけじゃないんだけど……」
「ま、いまから行くんだけどな」
「え?」
まだ言いかけているというのに、ブラックサンタはしれっと言い放った。ブラックサンタの自己中ぶりにはびっくりだ。
でも、何で僕はいままでブラックサンタのことを知らなかったんだろう。
「お前、何で今まで俺のこと知らなかったんだろうって思っただろ」
「え、何でわかったの?」
ドキっとした。ブラックサンタの言う通りだったから。ブラックサンタは心が読めるのだろうか。
「顔にそう書いてある。俺があそこにいなかったのは、魔女ベファーナの所に預けられてたんだよ。
ジジイも親父もブラックサンタの育て方知らなかったからな。ここんと双子なんて生まれてなかったからさ」
しれっと言ったけど、僕にはどこかブラックサンタが寂しそうに見えた。
親に預けられて育ったブラックサンタ。僕と一緒だったのかな。ついには誰も迎えにこなくて、帰ってきちゃったのかな。
きっと、おじいさんやお父さんが亡くなったときもいなかったんだよな。
「俺とサンタはあんま仲良くない。俺は悪い子のサンタだからな。
あいつは奇跡を起こせるけど、俺にはあいつみたいな奇跡は起こせない。クリスマスだって、悲しいこととか苦しいことがあるのも知ってる」
そういえば、ミチルが悪い子リストをどこかに送っていた気がする。そのリストを送っていたのはブラックサンタだったのかな。
でも、気になることがある。
「ブラックサンタはどうゆうサンタなの?」
サンタはサンタ。一体サンタとはどこが違うのだろうか。ブラックサンタは僕を見た。
「悪い子には、石炭やジャガイモを。さらに悪い子には豚の臓物をプレゼントするんだ。
魔女ベファーナはサンタとブラックサンタの両方をやっているから、俺は預けられたんだ。
だって、サンタしかやってこなかった奴には豚の臓物とか考えられねぇだろ? 国によっては俺の存在なんてなかったことになってるし」
ブラックサンタは鼻で笑った。僕は思わず身の毛がよだった。
確かに、そんなサンタ嫌だ。だって、臓物って内臓のことでしょ? そんなもの貰いたくないし、親だって見せたくない。
確かになかった存在にしたいけど、こうしているってことは必要なんだろうな。サンタの方が優先されるけど、必要なんだ。何だか奥が深い。
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