最後の奇跡

1年ぶりだろうか。人間の世界には、プレゼントを配る以外には行っていない。
本当なら、クリスマスを告げる鐘がなることに行くはずだった。今はまだイブで、空も明るい。


馬を下りると、ブラックサンタの馬は、再び空を駆けて行き、白い雲の中に入り、見えなくなった。今にも雪が降り出しそうな空。

「さて、お前んちどこだよ」

僕とブラックサンタは街に出た。賑わっていて、イルミネーションにも気合を入れている。
服装のせいか、皆がブラックサンタのことを見るが、本人はまったく気にしていないようだ。

「家はないよ。僕、孤児院にいたんだって……あれ?」

ブラックサンタの問いに答えていると、いつのまにかいなくなっていた。
キョロキョロと辺りを見回してみると、新聞を手に持って読んでいる。落ちていたのだろうか。僕はブラックサンタのもとへと行った。

「もう、勝手にいなくならないでよ」
「いなくなってないだろ。そんなことより、これ。お前のことじゃね?」

ブラックサンタは僕の注意をスルーし、新聞の記事を見せてきた。僕は新聞を手にとり、記事を読む。

「クリスマスイブに行方不明になった少年、今どこに? か……」

その記事には6年前にいなくなった少年のことが書かれてあった。
まるで、僕みたいだなぁと思って記事を読んでいくと、写真があった。

「あ」

まごうことなき僕だった。6年前の僕の写真だ。そうか、世間じゃ僕は行方不明者なのか。
そうだよな、あの日サンタを外に連れ出して、そのまま居なくなったんだもんな。孤児院だってびっくりだ。

「やっぱりお前か。下に電話番号が書いてあるだろ? 電話してみるから、金か何か貸せ」

まだ読んでいるのに、ブラックサンタは新聞を取り上げ、きれいなお店の前にある電話ボックスを指差した。
さらには金を貸せときたもんだ。本当に似ているのは外見だけだ。

「中身は全然違うんだね」
「うるせぇな。外見が似てるのは当たり前。双子なんだからな。いいから金!」

ブラックサンタはついには手を出してきた。てか、双子だったのか。どうりで似てるわけだ。
でも、どうしてサンタは何も言わなかったんだろう。双子だってこと。そんなことより、早く渡さないと。イライラしてきている。
僕は何か入っていないかと、コートのポケットを探ったら、テレフォンカードが出てきた。
あぁ。6年前から大事にとっといた奴だ。何でかいつも持ち歩いてしまう。いつかパパに電話しようと思ってたもの。結局電話は出来なかったけど。

「何だよ、持ってんじゃねぇかよ」

ブラックサンタは僕の手からカードをひったくった。人が思い出に浸っているというのに。
ブラックサンタはさっさと電話ボックスの所に行き、電話をかけ始めた。僕は溜め息をつき、外で待った。

「あ、もしもし? 今、新聞の記事を見て電話をかけています。 そう、6年前の。あ、はい。見つけました。え? わかりました。今からそちらに向かいますね。場所は、多分わかります」

ブラックサンタはガチャリと電話を切った。
僕は外に居たから相手の声は聞こえなかったけど、電話の向こうは誰なんだろう。僕の知り合いなのかな?

「よし、行くぞ。すぐ近くだ」

ブラックサンタはカードを僕に返さずに、自分のポケットに入れた。



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