時間旅行〜ロボットの見る夢〜


事故があった。それは、酷い事故で、時間旅行中に起きたものだった。大きな音がして、戻ってきたタイムマシンに乗っていたのは、たった一体の子供のロボットだった。
どこか破損したのか、堅く目を閉じている。そのロボットは、まるで人間が夢を見るかのようにうなされていた。




「お父さんはね、それはとても素晴らしい人だったの」

シュウの母は、いつもそう語っていた。シュウが小さい頃からそう言っていたが、シュウは父親の顔を知らない。
正確に言えば、顔は知っている。母がシュウの為に作ったロボットのフィンは、シュウの父親の子供の頃の姿を似せて作ったものだと言っていたからだ。
母から貰った当初は、自分よりも大きかったフィンだが、18歳になった今、外見だけ見れば12歳くらいのフィンの背を越してしまった。
それは当たり前のことだ。人はいつまでも小さいままではいられない。

「母さん、俺は父さんがどれだけ素晴らしかったのか知らないよ」

シュウは、2年前に母を亡くし、今ではフィンと2人で暮らしている。殆ど人と変わらない外見をしているフィン。そんなものは、この時代よくあることだ。
シュウの両親の出会いも、この時間旅行が許された今ならよくあることだ。 シュウの母は、過去に行き、シュウの父と出会い、恋をし、時間旅行を終えた。その後生まれたのがシュウだ。こんな話、今ではよくあることだ。

「母さんがいなくなった今、俺は母さんと同じことをするよ」

母の笑っている写真にそう語りかけるシュウ。フィンが不思議そうにそんなシュウを見ていた。

「シュウ、時間旅行に行くのか?」

母の写真から、フィンへと視線を移す。今では、フィンの頭のてっぺんが見えるくらいに成長してしまった。

「そうだよ。フィンも一緒に」

フィンの黒い髪……自分とは違う黒い髪をくしゃっと撫でる。

「こら! 俺のがお兄さんだぞ! 子供扱いするな!!」
「はは、ごめんね」

ぷりぷりとしながら手を払いのけるフィン。
髪も表情も、手触りも本物の人みたい。だが、フィンはロボットだ。よく出来たロボット。ロボットの技術も進んだものだと思いながらも、どこか複雑に思う。

「さて、じゃあ準備をしたらタイムマシンに乗ろうか」
「おうっ! 俺がリーダーだかんなっ!」

元気いっぱいのフィン。まるで弟みたいなフィン。本人は一向に認めないけど。
シュウは小さなショルダーバックに、財布と携帯電話と、身分証明書と、電子マネーを入れた。
最近の携帯電話は優秀なもので、時間旅行先の場所でも携帯電話のアンテナがあれば使えるらしい。あくまで、らしいのはシュウが聞いた話だからだ。
シュウは一度も時間旅行には行ったことがない。もちろん、フィンも。
時間旅行するのには、役所に届け出を出さなければいけない。基本的には、すぐその場で受理され、その後乗り場へ直行するものが多い。
シュウも例にならってタイムマシン乗り場へと行く。予約は随分前にとっといた。

「さて、行こうか」

タイムマシンは球体だ。これに乗って、過去へと行く。
モニターで監視されているためか、人はいない。働いている人もロボットが多くなったような気もする。

「俺があわせる!」

シュウが先に乗り込もうとすると、フィンはシュウを押しのけ、タッチパネルをいじりはじめた。
これで、行きたい年月日と時間を合わせて、行くことになる。

「間違えるなよー」

微笑ましそうにフィンを眺めるシュウ。ドアを閉め、のんきに座って待つ。
操作が終わると、まるで一仕事終えたぜというような感じで、フィンは息を吐いた。

「ふー……、ほらな! ちゃんと出来ただろっ!」

振り向き、ニカっと笑う。それを見たシュウも釣られて笑う。

フィンが発進ボタンを押し、タイムマシンを動かす。最近のタイムマシンはよくできているらしく、知らない間に目的地につくということをシュウは聞いていた。
確かに、動いているのか動いていないのかまったくわからない。窓もないので、外がどのような感じになっているのかもわからない。

「本当に凄いよなぁ、タイムマシン作った人」

外から見たらただの丸い乗り物なのに。本当にどんどん進歩していく。そんなことを思いながら、シュウは帽子をかぶりなおした。

「あ、ランプ消えた」

暫くした頃である。タッチパネルの前に陣取っていたフィンが呟いた。

「目的地到着って書いてある! 残り時間24時間?」
「あぁ。タイムマシン24時間しか借りられなかったんだ。お金とかの関係で。個人用のは安いけど、時間が過ぎると帰れなくなるから気をつけなくちゃね」
「はー!!?」

知らなかったのか、フィンが声をあげた。

「何だよそれー!? 先に言えよな」
「じゃあ、これは先に言うけど、到着場所とかわかんないから」
「はー!!?」

ドアを開けようとしていたフィンに、シュウが笑って言った。
「何だよそれー?」とか文句を言いながら、フィンはドアを開ける。物凄い風がタイムマシンの中に入ってきた。

「うわぁ!? おい! シュウ!! これはやばい!!」

風で思わずよろめくフィン。タイムマシンの出口は、空の上だった。

「おー。高いな。これはやばいなー」
「だったらのんきに笑ってるなよ!?」

はは、っと笑うシュウに思わずツッコミを入れるフィン。

「まぁ、まぁ。フィン宜しくな。帰る時はちゃんと下がって来るからさ」

のんきに笑って、フィンの背中にのしかかり、首に腕を回す。フィンはむすっとした顔をしたが、空へと足を踏み出した。
まっさかまに落ちて行く2人。地上に足が着いたとき、誰も怪我していなかった。



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