時間旅行〜ロボットの見る夢〜


シュウは何も話さなかった。何も話さずに、先ほど蝉取りをした神社へと向かった。
もうすぐ帰らなければならない。フィンの中も見てみなければいけない。

「シュウ?」

ハジメがシュウを見る。ヒグラシが鳴いている。シュウはその声で、ハジメを見、少し寂しそうな顔をした。

「ハジメ君、今日は楽しかったね。ごめんね、折角の蝉逃がしちゃって……」

しゃがみ、ハジメと視線を合わせるシュウ。
もう会うことはない父の顔を目に焼き付ける。フィンが、ぎゅっと手を握ってきた。

「ううん、俺こそ! 蝉はまた取ればいいし! 何かすげーこといっぱいですげー! 楽しかった!!」

にぃっと楽しそうに笑うハジメ。夕日で頬が赤く染まる。

「そっか。良かった。じゃあ、また……」
「おう! また! 俺に似てるやつもな!」

ゆっくりとハジメから離れる。「また」は、もうニ度々ない。シュウは、ハジメを残して神社を後にする。
時々振り返り、大きく手を振る小さな父親に手を振りかえす。もう、ニ度々会えない父親に。
少し寂しい気持ちになりながらも、シュウはフィンと共に下がっていた穴……タイムマシンに乗り込んだ。




フィンが起動を始めた時、シュウはいなかった。いつもはシュウによって起こされるのに、何だか違っていた。
あの時のようにウイルスでもなければ、何故だか自然に目がさめた。

「おい! 起きたぞ!!」

男の人の声がした。頭が混乱する。一体何があったのだろうか。
タイムマシンは、べこべこになっており、シュウはどこにもいない。

「シュウ?」

目の前にいるのは、知らない男の人ばかりだ。何があったのか思い出せない。

「あぁ、ごめんね。君の記憶チップを見ていたんだ。何が起こったのか」
「え、あ………!!!!!?」

耳の後ろに記憶チップを入れるところがある。抜かれていた記憶チップがそこに入れられ、フィンのパーツがすべてそろったとき、全てを思い出した。

「シュウ、シュウ……!!」

シュウの名を叫び、その場にうずくまる。目から溢れ出てくる涙。
シュウは、ここにはいない。フィンは全てを理解し、思い出した。
時間旅行中に、事故があった。原因はわからない。急に、タイムマシンが大きく揺れ、ドアが壊れた。
フィンは、シュウの手を?んだが、次第に手は離れ、シュウは……時間旅行中にどこかへと消えた。

「シュウが、シュウがっ……!!」

泣き叫ぶフィンに、男たちは驚いていた。普通、ロボットは涙を流さない。それなのに、フィンは涙を流し、悲しんでいる。

「今、総力をあげて探している。きっと、どこかの時代に落ちたんだ」
「おい! 何か来るぞ!!」

シュンっと、音を立てて現れたのは、丸いタイムマシン。シュウたちが乗っていたタイムマシンによく似ているが、どこか違う。

「な、何だ?」

男たちが近づき、ドアを開ける。中にいたのは……。

「シュウ!!!!」

傷つき、眠っているシュウだった。
フィンが、泣きながらシュウに近づくと、タイムマシンの床に何か紙が落ちていることに気づいた。

『俺をもとの時代に送り返します。俺は、その時代から20年後の今日に落ちてくるので、20年後、宜しく』

それはフィンがよく見慣れた字。フィンは髪を折りたたみ、シュウのショルダーバックの中へとつっこむ。
シュウは気を失っているだけだった。それを知って男たちはほっと胸をなでおろし、フィンは再び泣いた。シュウが目を覚ましてからも再び、わんわんと泣いた。 涙も、寂しさも、悲しさの意味も分からずに、わんわん泣いた。

「ごめん、ごめん。フィンの傍を離れたりしないよ」

苦笑しながら、シュウはフィンの頭を撫でた。

「本当?」
「本当。離れてなかったよ。っと、あとは20年後か……」

不安そうなフィンに笑いかけるシュウ。フィンも、シュウの言葉を聞き、にっと笑った。
小さな父親に会った。事故もあった。ロボットであるフィンは、夢を見た。シュウが、戻ってきた。

「あ。20年後も、フィンは小さいままだったよ」

「は!?」

突然の言葉に、声をあげるフィン。そんなフィンの反応を見て、シュウはくすっと笑った。
2人が時間旅行をすることは、もう二度となかった。




END




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ゆるゆるSF企画に提出したものです。
SFは初めて書きました。ちょっと楽しかった。

名前は、シュウとフィンは終わりからとってます。で、その逆がハジメ……。
ロボットと人間の友情のそんな、お話でした。


2013.9.1