時間旅行〜ロボットの見る夢〜


「音声が違います。もう一度音声認証を行ってください」
「くそっ! 声確認かよ!! だから、俺は嫌だったんだ!!」

どこかの工場の跡地にフィンは横たわっていた。
目は開いているが、真っ黒で何もうつしてはいなく、まるで留守番電話のように自動的に口が動いている。

「しょうがないだろ! これしか方法がなかったんだ!」

フィンの傍には2人の男。1人はひょろ長く、もう1人はがたいがいい。

「こいつが乗ってきたタイムマシンを聞くだけなんだから、何も停止される必要は……!」
「こつが暴れるからっ……! そうか、いっそのことこれを埋め込んじまえば!!」

がたいのいい男が鞄からマイクロチップのようなものを取り出し、フィンの服をめくり、腹へと手を伸ばす。
丁度ヘソがある部分に、それはあった。細い横穴のようなもの。男は、そこにチップを差し込んだ。
ブゥンという起動の音がして、真っ黒だったフィンの目が色を取り戻す。フィンの目に映るのは、2人の男。

「お、成功か?」

顔を覗き込むと、フィンはゆっくりと、起き上がり男たちに襲いかかった。
状況がつかめず、男たちは逃げ惑う。

「一体、何だってばよ!?」
「バグだ!! くそっ! 俺たちの作ったものが通用しない奴がいるなんて!」

がたいのいい男がそう叫ぶ。フィンの目は、いつもの目とは違く、男たちを捕えている。
起動はしたものの、いつものフィンではない。

「フィン!!!!」

男たちに襲いかかろうとするフィンと止めたのはシュウだった。
フィンが起動したことにより、GPSが起動し、とんできたのだ。隣には、息を切らしているハジメもいる。

「フィンだめだ!! 人に危害を加えては!! そんなことしたら一緒にいられなくなる!!」

後ろからフィンを羽交い絞めにするシュウ。シュウは、きっと目の前の男を睨んだ。

「おい、お前たちフィンに何をした」
「ふん、お前には関係ないだろ」

男たちは鼻を鳴らし、何も言わなかった。シュウは悔しそうな声を出した。
一方で、ハジメは自分に何が出来るか考えていた。ふと、虫かごを見ると、そこには大量の蝉。多分、今出来ることはこれしかない。

「えいっ!!」

ハジメは、虫かごのふたを開けた。そうすると、蝉が一斉に飛び出し、壁やらなんやらにはりつき、一斉に鳴きはじめた。それは、うるさいくらいに。

「な、何だ!!?」

男たちの目が蝉に奪われる。フィンの動きも止まった。初めて見る蝉を音を記憶している。
その隙に、シュウは、フィンの身体を調べる。ヘソ付近を触ると、何だか手に不快感を覚える。何かが入っている。
それに気づき、シュウは急いでフィンの中に入っているものを取り出す。その間も、男たちは蝉に目を奪われ、うるさそうに耳を塞ぎ、ハジメは少し残念そうに蝉を見ていた。

「何だこれ……。もしかして、ウイルス!?」

入っていたチップを取り出すと、フィンは再び動作が止まり、ぐったりと倒れこんだ。

「ういるす?」

ハジメは首をかしげて、シュウが手に持っているものを見ようと背伸びをした。
男たちの顔がみるみるうちに青くなっている。蝉に気をとられていた男たちは、そっと抜け出そうとしたのか、音を立てずに歩き始めた。

「おい!!」

シュウは男たちの背に向かって声をかける。男たちはびくっとし、ゆっくりと振り向いた。
シュウは問答無用で携帯電話を取り出し、電話をかけた。

「もしもし? 警察ですか?」

その一言で、男たちはまるで、ムンクのような顔をした。ハジメはそんな男たちの顔を見て、ぷっと吹き出した。
シュウは警察を呼んだのだ。所謂時間警察。ロボットにウイルスはいけないことになっている。

「フィン、起きろ」

ぐったりと倒れたフィンに声をかけると、ぱちっとフィンの目が開いた。
暫くは、シュウの顔を見ていたが、音声も顔も一致したのか、嬉しそうに笑った。その間も蝉はうるさく鳴きつづけていた。

「良かった、フィン……」

そんなフィンを見て、安心したかのようにぎゅっと抱きしめる。だが、直ぐにフィンを離し、男たちを見やる。

「すぐ警察が来る。ロボットにウイルスを入れるのは法律で禁じられてるし、そもそもこんなところにいる時点でだめだ。 どうせ、届出は出してないだろ。時間の管理者に話が行かないことを祈るんだな」

シュウはそう吐き捨て、フィンとわけがわかっていないハジメを連れて工場の跡地を後にした。
ハジメは振り返ったとき、蝉が一斉に工場の跡地から出て行くのを見た。



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