時間旅行〜ロボットの見る夢〜


空が夕焼けに変わる頃、ハジメはシュウを連れて社寺林の中から出てきた。
ハジメの持っている虫かごの中には、たくさんの蝉が入っている。

「すげーな! シュウは蝉取りの天才だ!」

籠の中に入っている蝉を見て、ハジメは満足そうに笑った。シュウもそんなハジメの笑顔を見て、ニッコリと笑う。

「そんなことないよ。ハジメ君が教えてくれたから」

小さな父親とこうして、遊ぶのは楽しかった。きっと、父親が傍にいたらこのやり取りは、逆になっていたのかもしれないと思うと、どこか寂しかった。

「あ! そうだ! シュウ、折角だからうちでご飯食べて行けよ! お母さんの作る料理は凄く美味しいんだぞっ!」
「え!? でも、悪いんじゃない……?」

ねだるように、シュウの腕を引っ張るハジメ。
まだタイムマシンまで時間はあるから、出来れば一緒にいたいが……。シュウはうーんと唸った。

「フィンは、どうす……フィン?」

境内の方を見るが、フィンはいなかった。

「フィン?」
「あの俺に似たやつ、いなくなっちゃったの?」

確かにここにいたはず。シュウは、神社の隅々まで探したが、フィンの姿はどこにもない。

「そうだ。フィンにはGPSが入っている!」

携帯電話を開き、場所を確認する。だが、フィンの居場所は表示されない。
シュウの心臓がドクンと跳ね上がった。居場所が表示されないということは、GPSが切られている。 フィンはそんなことは出来ないし、フィンが動いている間はGPSが起動しているはずだ。

「フィンが、止まった……?」

嫌な予感がする。手が震え、思わず携帯電話を落とす。携帯電話を落としたことにもシュウは気づかない。

「シュウ? きっと先に帰っちゃったんだよ」

携帯電話を拾い、シュウに渡すハジメ。シュウは携帯電話を受け取ったが、まだ手が震えていた。
フィンが先に帰るはずがない。タイムマシンが下がってくるのには、まだだいぶある。それに、もし帰っていても、GPSには表示される。
表示されないということは……、シュウは最悪の事態を想像した。

「フィンが……?」

小さい頃から一緒にいたフィン。そのフィンがいなくなっただけではなく、止まった。
思わずその場にしゃがみこむ。恐怖で体が思うように動かない。もし、このままフィンが見つからなければ? もし、このままフィンが動かなかったら……?

「シュウ……。俺も探すっ! 絶対見つかるよ! だから元気だせ!」
「ハジメ君……」

肩をたたき、励ますように笑うハジメ。諦めるのにはまだ早い。フィンを見つけるまでは帰ればない。

「そうだね……。フィンを探そう!」

ごしごしと涙を拭い、立ち上がる。どこにいるかはわからない。だが、そんな長い時間離れていたわけではない。
フィンは電車の乗り方も知らない。きっと遠くにはいないはずだ。

「行こうっ!」

再び、ハジメはシュウの腕を引っ張り、走り出す。
不思議なことに、今度はハジメの姿が、大人の姿の父親とだぶって見えた。



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