雫と虹


太陽の国、雨の国、星空の国、時間の国。それに、村や町も。色々な国があって、色々な世界がある。
大抵の人は知らないで一生を終える。もちろん、知っている人だって少なくない。
少なくとも僕が住む世界樹の森(別名聖霊の森)の人たちはそのことを知っている。
もちろん、僕だって知っているし、僕の兄さんや聖霊様も知っている。
聖霊様は本当に色々なことを知っているんだ。
この森がある時からここにいるから。でも、そんな聖霊様にも、解らないことがあった。
それは、なぜ雨が降らなくなってしまったかだ。


この森の木や花たちは、雨の水で育っていた。
だから、僕たち森の人は水をあげたりしたことはなかった。

「おーい、フィリカ。あっちの花の土が乾いているぞー」

僕が苗木に水をあげていると、セージ兄さんの声が聞こえた。
僕は、セージ兄さんがやればいいと思った。僕だって、他のことをやっているんだから。
けれど、兄さんは水あげとかじゃなくて、剪定の方にいるのを思い出した。
本来僕たちはこうやって植物に水をあげることは殆どない。雨が適度に降るから。
でも、ここ三カ月ぐらい雨が降らないんだ。
雨が降らないと水不足になったりするし、そのうち砂漠みたいになったりする。
だから、僕たちはこうして自分たちの手で水をあげているんだ。

「うわー、花たちがシワシワになってる」

セージ兄さんが言った所は、本当に土が乾いていた。
兄さんが嘘をついたとは思ってはいなかったけど。もちろん、兄さんを疑ったわけでもない。
ただ、花たちがこんなに水が欲しいと悲鳴を上げているのを見たことがなかったし、想像していなかったんだ。
でも、僕だって水が欲しい。
僕たち森の人はつねに、この森とともにあるけど、僕たちの水までを植物にあげることはない気がするんだ。
木とかの前に、僕たちが脱水症状で死んじゃうよ。それだけは避けなければ。
まぁ、僕はいくら雨が降らなくなって水不足になっても、この森は出る気はない。
正確にいうと、森から出たくないんだ。

「セージ兄さん、もう水がないよー」

僕は自分が持っていたジョウロの水がなくなったから、この植物たちにあげるために集められた水が置いてある大きなバケツがある所に行った。
そのバケツの中を見たんだけど、水の影も形もない。
でも、植物たちは悲鳴をあげている。今すぐにあげなければいけない植物だってある。
それに、今水をあげないと、また乾いてきてもっと大変なことになる。

「じゃあ、川に行って水でも汲んできてくれー」
「わかったー」

一体セージ兄さんはどこにいるんだろう。
姿は見えないけど、声は聞こえるなんて。きっと、鬱そうとした木の中にいるんだ。

僕は友達を誘って、川に水を汲みに行こうとした。
もちろん、あんなに大きなバケツは持って行けないから、大きなバケツの隣にあった普通の掃除するときに使うバケツを二つ持っていくことにした。

「おーい、コリウス。今、暇かい?」

僕は友達のコリウスを見つけた。
木の下に立っているだけだから、暇そうに見えたんだ。

「ごめん、フィリカ。今、父さんが木の上で剪定をしているから、その落ちてきた木を細かく切らなきゃいけないんだ。悪いけど、他を当たってくれ」

コリウスがそう言い終わるやいなや、木の上から枝が降ってきた。
僕はどんくさいから、その枝が頭にあたりそうになった。
コリウスより僕の方が背が低いのに、一体これはどうゆう事?
やっぱり、僕がどんくさいのがいけないのかな。
僕はコリウスにさよならを言って、川の方に歩き始めた。
コリウスと別れた後も、見かけた友達を誘ってみたけど、皆忙しいらしく、結局川へは僕一人で行くことになった。
何でか解らないけど、日ざしがとても強かった。



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