雫と虹


川の近くの花や木は元気そうだった。幸い、川もまだ枯れていないみたいだし、本当に良かった。
でも、川ってどこから流れてくるんだろう。流れているから枯れないのかな。でも、このまま雨が降らなきゃ川の水も干上がってしまう。
後で、聖霊様の所に行って何か解ったのか聞いてみよう。

「あ! 零しちゃった!」

僕はバケツ二つに水を汲んだ。
そんなに重くないかなって、思ってたんだけど、たくさん汲んだから予想外に重かった。
そして、よろめいて少し零してしまった。あんまりにも重いから、一つずつ持っていこうかと思ったぐらいだ。
それで、取りあえず二つのバケツを地面に置いた。

「雨、降らないかなー」

僕は草の上に寝っ転がり、木々の間から見える青い空を見つけた。
相変わらずのいい天気。にしても、僕は水を持っていかなきゃいけないのに、どうしてこんなことやっているんだろう。
そう言えば、兄さんもコリウスも雨が嫌いだって前に言ってた気がする。
雨が降ると、気がめいるし、外に出るのも億劫になるって。億劫っていうのはどうゆう意味かはよく解らないんだけど。
めんどくさいってことかな。でも、僕は雨、そんなに嫌いじゃないんだよね。
確かに、外出とかは面倒になるけど、雨が上がったあとはすっごくキラキラしているんだ。僕はそのキラキラが好き。
虹だって、たまに出るけど、凄く綺麗だと思う。

「あ、あれ。何だろう?」

空を見上げていると、青空に一本の藍色の線みたいな、虹みたいのが見えた。
でも、虹とは呼べないかもしれない。虹にしては短いんだ。でも、本当に虹みたいなんだ。

「ちょっと、見に行ってみよう」

僕は、その藍色の小さな虹を追いかけた。バケツはそのまま置きっぱなしだけど、気にしなかった。
盗む人もいないし。もし、あれが本当の虹なら、あの虹の所だけ雨が降ったのかもしれない。
いや、雨が降ってなくたって何かが起きたんだ。それは間違いないと思う。
僕はいつの間にか走っていた。虹っていうのはすぐに消えてしまう。消える前に追い付かないと。
走っていると、汗が噴き出してくるのが解った。息も荒くなっていた。
でも、早くあの虹の所に行きたかったから、汗も拭わずに走り続けた。

「見つけた、やっと……」

虹の先端は、森の中でも開けた場所にあり、虹の先端には、大きな筆を背中にしょった藍色の髪の男の子が切株に座っていた。
始めて見る顔だ。

「ん? 君は……」

男の子、歳が少し上だと思う子は、僕に気づき、こっちに来た。
その子が切株から立つと、虹は消えてしまった。

「君は、森の人?」

背も僕より高かった。多分だけど、この子は森の人ではないんだと思う。
始めてみる顔だし、僕たちが着ている服とは違う。
僕たちは、原住民っぽい服だけど、この子の服は本で読んだことがある西洋の服に似ていた。
一体、どこから来たんだろう?

「うん。君は?」

僕はその子の問いに答え、同時に聞き返した。

「俺はミンディ。太陽の国の者だ。俺は、虹を作るのを仕事としているんだけど、雨が降らないから帰れなくなっちゃって」

ミンディはそう言って、空を見上げた。僕もつられて空を見た。
僕は色々な国や世界があるのは知っていたけど、会うのは初めてだ。
だって、僕は森から出たこともないし、出ようと思ったこともない。でも、何か少しドキドキしてる。

「正確には、虹を作るために太陽の国から他の六人と一緒に虹を作っていたんだけど、バランスを崩して俺だけ虹のラインから外れちゃったんだ。気がついた時には、虹も皆もいなくて、帰り道が解らなくなっちゃったんだ。それで、雨が降れば、虹が出るかと思って、ここで待っていたんだけど……」

ミンディはエヘヘと恥ずかしそうに、そして少し寂しそうに笑った。
もしかして、三ヶ月の間、ここにいたのかな?
でも、もしそうならどうして僕は気づかなかったのかな?
周りを見ようとしていなかったからだと思う。興味なかったし。

「これでも、帰る努力はしているんだ。虹を作ってみたけど、長くなる前に消えちゃうし、水をまいて小さな水を作ってみたりもしたんだけど、小さすぎて帰れない。他にも色々な事を試してみたけど、もうお手上げさ」

ミンディは溜息をついた。深い絶望の溜息だ。僕に何か出来たらいいんだけど。
でも、何が出来るか解らないし……。あ! そうだ、こうゆう時こと聖霊様だ。聖霊様に聞いてみよう。
きっと、聖霊様なら何か知っているはずだ。

「じゃあ、僕が何でも知っている人に聞いてきてあげる! その代わり、川の方に置いてあるバケツを持つのを手伝ってほしいんだ」

僕の方が背が低いから、ミンディを見上げる形になった。
何だか、交換条件とか取引みたいな感じになっちゃったけど、ミンディはいいよって言ってくれるかな?
言ってくれなきゃ困る。だって、あのバケツいっぺんに二つも持てないんだもの。僕はまた、少しドキドキしている。

「いいよ、そのバケツはどこにあるんだ?」

ミンディはニカっと笑った。

「こ、こっちだよ!」

僕は少し嬉しくなった。



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