雫と虹


裏に着くとユピテル王子の予想通り、デモの人はいなかった。僕たちはすんなり城の中に入ることが出来た。
城の中に入ってみると、赤い文字はなかったけど、ものすごく静まり返っていた。外は騒がしいから、ちょっと不気味。

「静かだな」

ユピテル王子が、あたりを気にしながら言った。
人の気配はしないけど、皆どこにいるんだろう?

「皆、隠れてるのかな? それとも、誰もいないのかな?」

レイニィが人を探しながら言った。どこを見ても人の姿はない。まさか、寝てたりしないよね?

「もしかしたら、皆、城を出たのかもしれない。あのデモが怖くて」

なるほど。ユピテル王子の言う通りかもしれない。城で働いている人は、何も特別な人じゃない。特別な所で働いている一般人だ。
もしかしたら、城の人もあのデモに何人か参加しているんじゃないかな? 
でも、王子はどこにいるんだろう? にしても、この城は色々な所に色々な時計が飾ってあるな。

「とりあえず、謁見の間に行ってみよう」

僕たちは、ユピテル王子がどこからか持ってきた地図を見ながら、謁見の間に急いだ。
地図では謁見の間は正門の近くにある階段を上った所で、まさにその通りだった。
外で、騒いでいる声が聞こえる。まだ、デモをしているのか。謁見の間近くに行くと、扉が少し開いていて、人が何人かいるのかが見えた。
何か話しているのが聞こえたけど、内容はわからない。何か切羽つまった感じだ。

「どうやら、クロノス王子もいるみたいだな」

ユピテル王子が、扉の隙間から様子を覗いながら言い、ユピテル王子は扉をノックし、部屋の中に入った。

「クロノス王子、いるか?」

ユピテル王子は中に居る人に声をかけた。中に居る人たちは、僕たちの方を見た。
中に居るのは、四人で、二人はスーツを着た男の人、同じくスーツでメガネの女の人。最後の一人はマントと眼帯を身に付けた男の人だ。

「ユピテル。よく来てくれた」

ユピテル王子の姿を見るなり眼帯の男の人は駆け寄り、ハグした。
ユピテル王子は慣れているのか、抵抗はしなかったけど、ハグをしかえしたりはしなかった。
男の人はすぐにユピテル王子から離れた。

「ん? そこにいる子は雨の子か? ピオッジャと同じような感じがする」

ユピテル王子から離れたあと、男の人はレイニィの所に行った。
レイニィは、急に自分の所に来たから驚いて、かたくなった。

「俺はクロノス。時間の国の王子だ。君の名前は?」

クロノス王子はにっこりと笑って、握手を求めた。
やっぱり、この人がクロノス王子だったんだ。しかも、何かちょっと変な人だ。
レイニィはいきなりのことで、どうしたらいいのかわからず、僕たちの方を見た。

「おっと! 君は筆を持っているから太陽の子だね?」

クロノス王子はレイニィが握手に応じなかったのを気にせず、ミンディに問うた。
ミンディは、ちょっとビクっとした。

「え、まぁ。そうですけど」
「そうか、よろしく」

クロノス王子は、驚いているミンディを気にせず、無理やり握手をした。
ミンディの笑顔がひきつってる。僕の所にも来たんだけど、ユピテル王子が止めてくれた。

「クロノス王子、皆が困ってるよ」

僕たちがクロノス王子の変なテンションに困ってたから、ユピテル王子のその一言は凄くありがたかった。

「しょうがないだろ。来客なんて久しぶりなんだから。それにしても、お前が国から出るの珍しいじゃん。何か雰囲気も変わった感じだし」

クロノス王子は、今度はユピテル王子に絡み始めた。
背中とか、ばんばん叩いちゃって。ユピテル王子、少し嫌そうにしている。

「そんなことより、私は真実を知りたい。私は、なぜピオッジャ姫に嫌われてしまったのだ?」

ユピテル王子はクロノス王子の手を払いのけた。
クロノス王子はユピテル王子がそう言った瞬間、真面目な顔になり、意味深にニヤっと笑った。



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