シャウラ


歌が聞こえた。楽しそうな歌が。聴いたことのない歌が。でも、どこかで聴いたことがある。
だれか、この歌を知らない? 凄く懐かしい感じがするんだ。



「あ! シャウラだ! 今日は何か持ってきた?」

俺の姿を見るなり、小さい子たちが集まってきた。満面の笑みで。

「おうっ! 今日も街で重たいサイフをどっさりとスッて来たぜ」

俺がそう言ってそのサイフを見せると、小さい子たちから歓声があがる。

俺の村は貧乏だ。住んでいるのは、皆子供で顔見知りだらけ。
大人はどこかへ行ってしまって帰ってこない。朝起きたら大人が皆いなくなってたって時は驚いたね。
でも、これはあくまで噂だけど、どうやら死んだわけじゃないらしいんだ。あくまで噂で、本当の所はどうなのかわからない。
それで、その大人たちが残していったものが、この村と大量の羊と畑。ここ最近は雨も降らず、畑はすっかりカラカラだ。
冬の間は寒すぎて何も出来ないし、雪は多いしで困ってたのに春に入った途端これだ。

「すごーい! 今日はこれでお腹いっぱい食べられるね」

小さい子たちは嬉しそうにニコニコ笑う。小さい子たちはまだ色々なことがよくわかっていなくて、いつもお腹を減らしている。
本当にかわいそうだと思う。そう思い、俺は街に出てスリを始めるようになったんだ。

「シャウラ!」

小さい子たちと戯れていると、俺の後ろから怒った声が聞こえてきた。この声は……。俺はおそるおそる振り向いた。
あぁ、シャム姉ちゃん。やっぱりシャム姉ちゃん。シャム姉ちゃんが修羅のような顔でこっちに歩いて来ている。大またで。

「シャム姉ちゃん」

俺は反射的に後ろに下がった。怒った姉ちゃんはもの凄く怖い。きっと、幽霊とかも飛び上がって逃げると思うんだ。

「シャウラ、そのサイフ。スッて来たって言ったわよね?」

姉ちゃんは引きつった笑顔を俺に向けた。姉ちゃん、目が笑っていないよ、目が。
こんな時はだんまりが一番だ。だけど、姉ちゃんは俺のやることなんかお見通しで、 そのだんまりをイエスととり、俺の頭をグーで殴った。

「いっ……てぇ〜〜! 何すんだよ!」

あたまりの痛さに涙が出てきた。殴られた所を摩りながら姉ちゃんにくってかかると、鬼のような目で睨まれた。
思わず俺は姉ちゃんから目を逸らしたね。怖くて。

「あんた! あれほど盗みは良くないことだって言ったでしょ! 犯罪なのよ? 一体何度言えばわかるの! そのうち捕まるわよ!?」

姉ちゃんはいつもそう怒鳴る。俺は村のためにやっているのに、どうしていつも俺が怒られなきゃいけないんだ。

「俺はただ……」
「ただ、何? 何か文句でもあるの? こっちは人手が足りないの。羊たちを柵の中に戻してやって」

姉ちゃんは俺に反論する暇さえ与えずに、犬笛を押し付けた。
姉ちゃんはわかってないんだ。小さい子たちがどれだけ、ひもじい思いをしているのか。俺だって腹いっぱい食べたいよ。
その点羊たちが羨ましい。草さえ食べていれば腹いっぱいになるのだから。
冬は終わったから草も伸びてきたし、餌の時間になれば俺たちが餌をやるし。
もしかしたら、俺もそろそろ毛を刈らせて貰えるのかな。ちょっとあれ、俺もやってみたいんだよね。 でもなぁ、姉ちゃんに言われるのは凄く嫌だ。 でも、こうして姉ちゃんの言うことを素直に聞き、羊たちの所に向かう俺がちょっと好きだ。


羊たちは相変わらず元気に草を食べている。俺たちは羊たちみたいに草を食べられない。

「この道を真っ直ぐ行けば町なんだよなぁ」

村から真っ直ぐ伸びる道。この道を進めば、この村とはうって変わった裕福な町がある。
そこにいけば、きっと……。俺は犬笛を吹いた。
すると、二匹のボーダーコリーがどこからかやってきて、羊たちを柵の中に入れようと追い立てる。
あの二匹は信用できるし、頭がいい。うん、きっと何とかなる。俺はそう思いながら、町へと続く道を走り出した。



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