シャウラ


「シャート! 二人は、ペテルギウスとリゲルは無事なの!?」

オリオンは凄く心配そうな顔で、四人の中の一番小柄な人にそう詰めよった。小柄な人はコクンと頷いた。

「大丈夫。魔力も戻り、君の帰りを待っているよ」

シャートと呼ばれた小柄な人はにっこりと笑い、それを見たオリオンは「良かった」とため息をついた。
そうか、無事なんだ。良かった。

「さて、アルコル。君は何てことをしてくれたんだ。絵のこともそうだが、他人から魔力を奪うなんて。 君はあの二人を殺すつもりか?」

長身の人がアルコルの方を見て言った。でも、何だかアルコルは余裕そう。

「そうか、そう言うことか。貴方たちは絵の中には入れない。時間が戻ってしまうから。 だから、〇等星のオリオンに頼んだ。それに僕も〇等星だ。僕の魔力は他人にはどうすることもできない。 そうだろ? アルフェラツ」

アルコルも長身の人を見た。アルフェラツと呼ばれた人は、ため息をつき、さらに続けた。

「確かに、〇等星である君を私たちはどうすることもできない。 だが、今回の件は校長も、タビトも大変お怒りだ。オリオンのおかげで、君が絵を描いたという証拠もとれた。 今から君とシャムを、校長の所に連れて行く。ついてきなさい」

アルフェラツがそう言うと、アルコルは何も言えなくなった。姉ちゃんも何も言わなかった。
何も言わないし、動かない。黒人の人がアルコルを、眼鏡の人が姉ちゃんを連れて行こうとしている。

「姉ちゃん!」

俺は思わず姉ちゃんに駆け寄った。姉ちゃんは俺の方を向き、申し訳なさそうな顔をした。

「ごめんね、シャウラ。村で待ってて」
「……姉ちゃん」

姉ちゃん、泣きそうな顔をしている。姉ちゃんがいなくなったら、俺は、俺は……。
父さんたちが戻ってきても、姉ちゃんがいないなんで嫌だよ。待ってよ、姉ちゃん。行かないでくれよ。

姉ちゃんは行ってしまった。アルコルと一緒に、ペガサス座の人に連れられて。
俺は後を追うことが出来なかった。 俺がもう少ししっかりしていれば、姉ちゃんはあんなに追い詰められることはなかったんじゃないか? 俺が、ちゃんと……。

「オリオン、その子を村まで送って行ってくれないかい?」

アルフェラツの声。きっと、俺は姉ちゃんが行った先を見つめたまま情けない顔をしているんだろう。

「まかせといて。それと、アルフェラツ。シャムの……あいつらの罰、そんなに重いやつにしないで欲しいんだ。出来る……?」

オリオンがおずおずと尋ねる声が聞こえ、俺はオリオンの方を見た。

「君は優しいね。だから……、いや、何でもない。罰のことは話してみるよ」

そう言って、アルフェラツは消えた。シャートも消えた。ここには、俺たちだけが取り残された。

「行くか、シャウラ。村まで送ってやるよ」

オリオンはそう言って、いつものようにニカっと笑った。俺も笑った。
うん、大丈夫。きっとなんとかなる。なんとかしてみせる。もう、こんなことが起きないように。二度と同じ間違いはしないよ。

「なぁ、オリオン。俺たちって友達だよな?」

俺は思わずそんなことを聞いてしまった。会ったばかりのオリオン。でも、彼は特別で、俺に大切なことを教えてくれた。
それに、このまま村に帰ったらもう会えない気がするんだ。

「おう! 俺たちは世界最強のコンビだぜっ!」

オリオンは楽しそうにニカっと笑った。木々たちが、風がざわめきはじめた。まるで、歌っているかのように。
今なら彼らが何を言っているのかわかる気がするよ。いつも、俺たちを見守っている彼ら。
大丈夫、きっと何とかなる。父さんたちのことも、姉ちゃんのことも、これからのことも。

「おい、シャウラ。何泣いてるんだよ? 腹でも痛いのか?」

オリオンの慌てた声。次々と溢れ出す涙。悲しいんじゃない。何でかわからないけど、涙が止まらないんだ。

「大丈夫だよ、何でもない」

聞こえる。彼らの歌が。彼らはいつも、俺たちに話し掛けていた。
だって、彼らはおしゃべりだから。とても懐かしい歌。何で、この歌を忘れていたんだろう。彼らも同じように生きているのに。
俺も彼らと一緒に歌うよ。生命の歌を。
この歌がある限り、大丈夫だよな、オリオン。皆、今を生きている。
だから、大丈夫だよ。父さんたちも、姉ちゃんも。



歌が聞こえた。楽しそうな歌が。聞いたことのない歌が。
でも、どこかで聞いたことのある懐かしい歌。俺はこの歌を知っている。



そして……、もう忘れない。  




 
END



 
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