ポラリス


アジトでは一体どんな扱いをされるのだろうと思った。縛られたりとかするのかと思っていたけど、全然そんなのはなかった。
ただ本当につれてこられただけで、僕たちは何か地面に描いてある絵の上で放置された。

「ねえ、アルカイド。こんなことしてオリオン座は本当に来ると思う?」

北斗七星、唯一の女の子がそう言った。だけど、アルカイドは答えない。
何か一人でブツブツと独り言のようなものを言っていた。ちょっと気持ち悪い。

「来るでしょ。今、アルカイドが呼び出しているし。それに来なかったら結構酷いよ。 だって、チケットと交換だろ? ミザルもそれはわかっているだろ?」

バンダナを頭にまいている男の子がミザルにそう言った。ミザルはうーんと唸った。

「確かにメグレズの言う通りだけどさー」

バンダナはメグレズって言うのか。こいつ、僕たちに注意した奴だ。
にしても、オリオンを呼び出すだなんてどうやってやるんだろう?  でも、初めてここに来たときも僕たちは何か呼び出された感じだよね。
僕はそれをカノープスの話そうと思ったんだけど、カノープスはすっかり怯えている。こいつ、怖がりだからなぁ。

「ミザル、メグレズ。オリオン座は来る。今呼びかけた」

アルカイドはぶつぶつ言うのをやめ、ミザルたちの方を見た。

「どんなふうに呼びかけたんだ? アリオトがやったみたいなの?」

メグレズが特に興味なさそうに聞いた。アルカイドは首を横に振った。

「チケットに文字を浮かび上がらせた。双子とチケットを交換と。あいつのことだ。すぐに来るだろう」

アルカイドは自信たっぷりだった。もしかして、アルカイドはオリオンのことよくわかっているんじゃないかなぁ。
急に、さっきまで分厚い本を読んでいたアリオトが顔をあげた。

「来る!」

その瞬間、閉まっていたドアが開き、ビュンという音がした。

「絨毯をスピード舐めんなよ! さぁ、二人を渡して貰おうか!」
「オリオン!!」

オリオンたちだ。オリオンが先頭で、オリオン座メンバーが現れた。
もう、最高にカッコいい!! カノープスなんか感激の声を出した。何か、僕は少し嬉しくなった。

「チケットと交換だ」

アルカイドはそう不敵に笑う。どこか怒っているようで。だけど、オリオンはそんなアルカイドを見ていつものようにニカッと笑った。

「嫌だなぁ、アルカイド。黙って借りただけじゃないか。お前が面白そうなものを持っているから。返してやるから、二人を返せよ」

オリオンは何か余裕な感じ。だからカッコいいんだ。

「お前がチケットをこっちへ持ってこい」

アルカイドは余裕たっぷりなオリオンに凄んだ。だけど、オリオンはニヤっと笑い、仲間を率いてアルカイドの方に行った。
オリオンも僕たちと同じような変な絵の上に来た。僕たちの絵とはちょっと違う。

「ほら、お前のチケットだ」

オリオンがアルカイドにチケットを投げた。そのチケットを受け取ると、今度はアルカイドがニヤっと笑った。
アリオトとフェグダとズーベが何かブツブツと言いだした。何を言っているかわからない。
オリオンたちも三人を見ている。僕はあることに気付いた。オリオンたちの足元の変な絵が、 その絵にそって真っ黒い空間が広がっていくのが見えた。何だか凄く嫌な予感がする。

「皆、そこに居たら危ない!」

僕は思わずそう叫んでいた。だけど、もう遅かった。足元の黒い空間は完成して、床が消えちゃったんだ。

「うわぁあぁあああああぁああ!」
「オリオン!」

オリオンたちは叫び声をあげながら、その空間に吸い込まれるようにして落ちて行った。
すぐにオリオンたちのもとへ駆けて行くカノープスの声が聞こえた。もう少し早く気付いていれば、こんなことにはならなかったのに。

「あなたも同じ所へ行けるわよ」

ミザルの声が聞こえた。でも、その声は僕に言っているんじゃない。
そうだ! カノープス! カノープスはどうなったんだ? さっき、オリオンたちの方に行ったけど。
僕は黒い空間を見た瞬間、駆けだしていた。カノープスがミザルに突き落とされそうになっているんだ。

「カノープス!」

どうにか僕は間にあい、突き落とされたカノープスの腕を掴んだ。
カノープスぐらい、弟のことぐらい、僕が守ってやるんだ。こいつ、臆病だから。

「ポラリス! ダメだよ、ポラリスまで落ちちゃうよ!」

僕は非力で、カノープスもそのことはよく知っている。腕は痛いし、もう何も言いたくない。
引っ張るのに集中しないと、落としてしまうから。

「美しい兄弟愛だねぇ。だったら、二人一緒に行っちまえ!」
「わぁ!?」

僕が、がんばっていると後ろからメグレズに蹴り飛ばされ、カノープスの腕を掴んだまま暗い穴に落っこちて行った。
カノープスのことだけは離すまいと思っていた。だけど、何でかよくわからないけど、僕たちは引き離され、 手を伸ばしても届かなかった。



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