リゲル


黒髪といえば、オリオンもそうだよね。オリオンとはすばるに導かれてすぐに仲良くなったわけじゃないんだ。
僕は、すばるでは空に一番近いと言われている塔の屋上にいつも居た。ここには人もいないし、魔法の勉強も出来る。
何より、何もかもわすれられた。その日もさ、いつものように屋上にいたんだ。
でも、その日は何かが違っていた。いつも誰もいないのに、そこにはオリオンがいたんだ。
皆の人気者で、人と違う雰囲気を持つオリオン。

「お? 新入りか?」

オリオンは僕を見て、ニカっと笑った。
人がいないと思っていたから、僕は驚いたし、なにより居たのがオリオンってことにも驚いた。 オリオンの周りにはいつも人がいたからね。
でも、僕は殴られたあとを見られるのが嫌で、立ち去ろうとした。立ち去ろうとしたはずなのに、僕はそこにいた。
そこにいて、オリオンを見ていた。皆の人気者で、こんなふうに笑う人がどうして、すばるにって思ったんだ。

「あの、オリオンだよね?」

僕は自分から話し掛けていた。自分でもびっくりした。

「そうだよ、お前は……リゲルだっけ?」

名前を呼ばれた瞬間、体がビクっと震えた。怖くてじゃない。
名前を、僕のことを知っているのが、名前を呼ばれたことが嬉しくて震えた。

「そんな所に立ってないで、こっちに来いよ。話そうぜ?」

オリオンが手招きした。僕を呼んでいる。僕は、大人しくそれに従い、オリオンの隣にストンと座った。
座った瞬間、涙が出てきた。今までとは違う涙。今まで、あっち行けとか、無視されてた。
だから、誰も僕を必要としていないだって思ってた。いらない存在だと思ってた。
だけど、オリオンは僕の名前を呼び、僕に笑いかけ、僕に話し掛けてくれた。たったそれだけのことなのに、涙が止まらなくなった。
次々と涙が溢れ出て、止まらなくなった。オリオンは、急に泣き出した僕を見て驚いていなかった。
顔の痣とかで、僕がどんな目に合ってるかわかったんだろう。

「世の中って不公平だよな。でもさ、俺は思うんだ。 チャンスや幸せは皆にも同じように訪れるって。だからさ、リゲルは大丈夫だよ」

オリオンはニカっと笑い、僕の頭を撫でてくれた。ただそれだけのことなのに、嬉しかった。
嬉しくて、嬉しくて、世界が変わった気がした。
僕はいつの間にか、声をあげて泣いていた。今までに溜めていたものが、溢れ出して止まらなくなった。
ひたすら、わんわん泣いた。その間も、オリオンは黙って僕の傍に居てくれた。
この日から、僕はオリオン座メンバーになった。



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