冬の使い
吹雪は段々と強くなっていった。真っ白で前も見えないくらいに。きっと、外に出ている人達なんて僕達くらいだ。
お兄ちゃんの職場までだって、そんなに遠くないのにいつもより遠く感じた。
「ぶへー、こんな吹雪初めてだ」
職場につくと、お兄ちゃんは、カードキーを使ってドアを開けた。が、肝心なドアが雪で開かない。
僕達は協力してドアを何とかこじ開けた。お兄ちゃんの職場の中まで入るのは初めて。だから思わずキョロキョロと見ちゃった。
何かセキュリティが凄そう。電気も自動的についたし。入り口のドアからカードキーだもんな。取り敢えず、中は吹雪かないからよかった。
「ブランカはどこ?」
僕は体についた雪をはらい落とし、お兄ちゃんに問うた。
「地下にいるはずだ。こっちだ」
お兄ちゃんもルーについた雪と自分についた雪を払い落とした。僕達は奥へと進み、階段を下りた。
ルーがきゃっきゃと喜んでいるけど、意味がわかっているのだろうか?
僕達はゆっくりと階段を下りて、地下へと向かった。地下にもいくつか部屋があり、お兄ちゃんは一番頑丈そうなドアの前で止まった。
「ここに冬の使いがいる」
頑丈で重たそうなドア。この向こうに、ブランカが。お兄ちゃんはカードキーでドアを開けた。
部屋の中を除くと、僕とお兄ちゃんは跳び上がるほど驚いた。部屋のだっていうのに、ブランカにいる部屋は冬だった。雪が積もっており、寒い。ブランカはその中に居た。
「やぁ、ベル」
ブランカは、僕に笑いかけてきた。
その笑顔が何だか怖くて、僕は服をぎゅっと握った。
「だから、捕まえても意味ないって言ったじゃんか。もっと酷いことになっただろ? それに、冬にはちゃんと意味があるんだ。
意味があるから存在している。意味のない物なんかはどこにもないんだよ」
ブランカはそう言って、笑った。怒りもせずに笑った。
ブランカは、初めからどうなるか知っていたんだね。だから、あの時抵抗しなかったんだ。
「俺達はバカだった。表面的にしか物事を考えていなかった。君にしたことを謝る。だから、白い狐を止める方法を教えてくれ! このままでは、町が氷付けになってしまう」
お兄ちゃんは頭を下げた。それを見た瞬間、僕は泣きたくなった。
僕が友達を売ったのがいけないのに、僕がいけないのに、お兄ちゃんに迷惑をかけてしまった。
僕がブランカのことを誰にもしゃべらなければ、こんな風にはならなかった。僕はただ、お父さんとお母さんに前みたいに仲良くなってほしかっただけなんだ。
それだけだったのに、僕は……。
「さぁね。今までこんな事はなかったからね。でも、ビアンカに会わせてくれればどうにか成るかもしれないね」
ブランカは余裕そうに笑っている。もしかしたら、ブランカは僕達がどうなってもいいと思っているのかもしれない。
もし、そうだったらここから出さない方がいいんじゃない……? お兄ちゃんはブランカを真剣な目で見ている。
「わかった。君をここから出す。だから、白い狐をどうにかしかしてくれ」
「交換条件だね。わかった。どうにかできるかわからないけど、がんばってみるよ」
相変わらずブランカは笑っている。どうして、笑っているの? 僕達がこんなに大変なのに。
僕はブランカを信用することが出来なかった。僕が悪いのにね。お兄ちゃんみたいに頭を下げられないのも、どこかで疑っているからだ。
僕達はブランカを部屋から出し、ビアンカを探して外へ出た。外は相変わらず吹雪いていて、嬉しそうなブランカに少しだけムっときた。
「さて、ビアンカはどこにいるのかな?」
探す気があるのか、ないのか、ブランカはのんびりとそう言った。でも、僕には何も言う権利はない。
もとはといえば、僕がブランカのことを話したのが原因だ。話さなければ、冬の使いが誰だかわからず、結局捕まえられなかった。
ブランカは何も言わないけど、もしかしたら心の中ではそう思っているのかもしれない。怒っているのかもしれない。あぁ、どうせ僕はバカさ。あんなこともう二度としないよ。
「あっち、あっちいくの!」
「わっ!?」
僕が自分を責めていると、大人しくしていたルーが急に動き出した。
小さな手を、真っ直ぐ前にのばして。
「どうした? お腹減ったのか?」
お兄ちゃんはそんなルーに目線を合わせだけど、ルーは余計に暴れだした。
僕は必死で頑張ったんだけど、ついには僕の腕の中から雪の上に落ちてしまった。
「ルージュ!!」
「ルー!!」
お兄ちゃんと僕は叫んだ。ルーはまだ歩けるようになったばっかりの足で、1人で走って行ってしまったんだ。
お兄ちゃんと僕は、急いでルーの後を追い、今度はお兄ちゃんがルーを抱き上げた。
「いや、いやー! あっち、あっちー!!」
ルーはまだ暴れ、ダダをこねる。あっちに一体何があるんだよ!?
「わかった、わかったから。あっち、行こうな?」
お兄ちゃんがそう言って、ルーの頭を撫でるとやっとルーは大人しくなった。
顔はまだむっとしているから、言うこと聞かないとまた暴れ出すだろうな。お兄ちゃんはブランカを見た。
「悪い。先にあっちを探させてくれ。行かないとルーがまた暴れ出しそうだ」
「いいよ。にしても、あっちには何があるんだろうね?」
そう言ったブランカはどこか、楽しそうだった。
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