冬の使い


ブランカが捕まってから何日か過ぎた。雪は降らず、直ぐに太陽が戻ってきて、まるで春がきたかのようにぽかぽかとした日が続いた。
皆、冬はなくなったのだと歓声をあげた。虫達も春と間違えて出てきたりしたが、スノーウィー達は冬眠から覚めるけはいはなかった。 何日も過ぎて、本当に冬がなくなったんだと思ったあの日。僕達の町はもの凄い吹雪に襲われた。

「凄い吹雪だね。ブランカは捕まっているのにどうして?」

家の中を暖かくし、僕は家の窓から外を見た。こんな吹雪初めてだ。
外にも出られない。お兄ちゃんも仕事に行けないから家にいる。それは少し嬉しいけどね。ルーも喜んでいる。

「もしかして、冬の使いは逃げたのか? でも、こんな天気じゃ確かめに何か行けないし……」

お兄ちゃんはココアを作りながらそう言った。お母さんは相変わらず部屋から出てこなくて、お父さんは帰って来ない。
僕はおもちゃで無邪気に遊んでいるルーが羨ましくなった。だって、何もわからないんだもの。 何も考えなくていいんだもの。何もわからなければ、悲しいとか苦しいとかわからないよ。だって、ルーは赤ちゃんで、少ししかしゃべれない。

「考えてもダメか。ここのところ仕事忙しかったし、今日は家でゆっくりするかな」

お兄ちゃんはそう言って、大きく伸びをした。明日になったら吹雪やんでくれているといいな。
明日はロッシと遊ぶ約束をしているんだ。ロッシが何かよくわからないけど、何か見せてくれるらしいんだ。 何だろう。どうせ、自慢だと思うけど。ロッシってそういう奴なんだ。
僕達は暖かくして、のん気にココアを飲んでいた。そんな時、こんな吹雪の中誰か来たのか、インターホンが鳴った。

「? 誰だろう?」

本当にそう思った。だって、こんな吹雪の中誰かくるはずがない。外に出たりしない。空耳かとも思ったけど、空耳じゃなさそう。 お兄ちゃんは急いで玄関へ向かい、外にいた人物を招き入れて直ぐに戻ってきた。もしかして、お父さんが帰ってきた!?

「ベル、タオル。それと何か暖かい物を用意してくれ」
「え? ロッシ? どうしたの?」

お兄ちゃんの後ろに居たのはロッシだった。頭には雪がつもり、寒いのか震えて青い顔をしている。
何か普通じゃない。大体、どうしてロッシがこんな所にいるんだ?

「ロッシ! どうしたの!?」
「ベル!」

ロッシに近づこうとしたら、お兄ちゃんに一喝された。そうだった。タオルと暖かい物だ。
僕は急いでお兄ちゃんに言われた物を用意した。でも、何でロッシがここにいるんだ?
ロッシは暖炉の前に座らされた。僕の服に着替えさせ、その上から毛布をくるまり、ココアを飲んでいる。
こんな吹雪の日に一体どうしたんだろう? ロッシ、まだ震えている。

「一体どうしたんだい?」

お兄ちゃんはロッシにそう問うた。ロッシはガタガタと震えていて、しゃべれないみたいだった。
僕達はロッシが落ち着くのを待った。その間も外は吹雪いていた。

「……白い、狐が……。白い狐が襲ってきたんだ!」

ロッシは声を絞り出し、そう叫んだ。
しゃべれたってことは少し落ち着いたのかな。まだ震えているけど。

「白い狐?」

白い狐……ビアンカ? この辺に狐はいないし、居るとすればビアンカだ。
ブランカが捕まった時にはもう既にいなかった。

「大きな、白い狐が……、家を凍らせて、……」

ロッシは怯えたように震えている。きっと、何か酷い目にあったんだろう。
どんな目かはわからないけど、この怯えようはとっても酷いことだ。

「白い狐か……」

お兄ちゃんは考え込むように呟いた。お兄ちゃん、何か心当たりがあるのだろうか? 
去年、ビアンカにも会っているはずだけど。あれ? でも会ったっていっても1回くらいだったかなぁ。でも、ビアンカは一度見たら忘れないはず。

「そういえば、白い狐……冬の使いと一緒にいたよな。去年、俺はベルが冬の使いを友達だよって紹介してくれたあの時も冬の使いと一緒にいたよな。 冬の使いを捕まえる時も見た気がするけど、それから見ていない。 白い狐……狐はあの子を探している? いや、まて。そもそも普通の狐に家を凍らせたりする能力はないはず……」

お兄ちゃんは何かブツブツ呟いていたけど、僕にはよくわからなかった。
お兄ちゃんが何を言いたいのか。

「家を凍らせる狐に、冬の使い……使い。冬の使いを捕まえても、冬はなくならない……。 冬の使いは冬を運んでくる。冬の使い……、使い? 冬は誰かの使い……。冬の使いを使っているのは、冬そのもの。まさか、白い狐が……冬?」

お兄ちゃんは、はっという顔をした。僕も、はっとした。
そうか。ブランカ言ってたじゃないか。冬の使いは冬の使いって。そうか。そういうことだったのか。 やっと今、ブランカの言った意味がわかった。冬の使いは、冬の使い。ブランカは冬であるビアンカの使い。 もしかして、僕は大変なことをやらかしてしまったんじゃないだろうか。

「それなら納得が行くぞ。あの子を捕まえたらから怒っているんだ。そして、あの子を探している。 冬の使いであるあの子を。冬の使いを捕まえたからって、冬はなくなりはしない。人工的に冬を作り出してもダメだ! 冬はなくなりはしない。冬は必要なものなんだ!」

僕はまだ、お兄ちゃんの言う冬が必要だっていうのはよくわからなかった。だって、冬は僕達家族をバラバラにしちゃったんだから。 冬は僕から家族を奪っていった。友達だって。冬が無ければ冬眠何かしないのに。

「よし! ベル! 出かけるぞ! 冬の使いに会いに行く!」
「え!?」

お兄ちゃんはいつも唐突だ。自分1人で納得して、僕には何もおしえてくれない。
それにこんな吹雪の中出かけるっていうの!? どうやらお兄ちゃんは本気らしく、そそくさとコートを着た。

「ロッシはここに居てもらう。あんな状態じゃ連れて行けないからな」

お兄ちゃんはロッシの方を見た。ロッシは暖炉の火を見つめ、白い狐がと呟いていた。

「うん。でも、ルーは連れて行こう。お母さんは部屋から出てこないし、ロッシはあんなんだし、もしうちにビアンカが来ても誰もルーを守れないよ。2人の負担にもなっちゃう」

僕も急いでコートを着た。
凄く暖かい格好をしていかないと、寒くて凍えてしまう。
「そうだな。ルーは連れて行こう」

お兄ちゃんは僕が言ったことに頷き、ルーにコートを着せた。
ルーはわかっているのか、わかっていないんだかわからないけど、真剣な目でお兄ちゃんのことを見て、大人しく抱っこされた。

「よし、行こう!」

僕達はお兄ちゃんのその掛け声を合図に外に出た。
外は猛吹雪だ。こんなの体験したことないよ。前がうまく見えない。 僕達は手を繋いで固まって歩いた。向かうはお兄ちゃんの職場。そんなに遠くない職場だけど、職場に行く間に氷付けにされた家を何軒も見た。何だかゾッとした。



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